光明

 アインはその日、正式にアリアと人生のパートナーとなった。
 共に世界を救った仲間たちはみな大事な存在だったしレーテの村の村長から「人生のパートナー」の話をされたときも彼らならば誰を選んでもきっと自分は幸せだろうしこれからの長い人生を支え合って生きていけるだろうという確信もあった。
 そんな中でアリアを選んだ理由、なんて。

「アインならアリアくんをパートナーに迎えるのだろうと思っていたよ」
「僕もそう思います」
「……自分ってそんなに分かりやすい?」

 ハイネとアジールの言葉にアインは思わず息を吐いた。
 元々、成り行きとはいえアリアと共同生活を送っていたことがある。あの頃、家に帰る度にアリアが言ってくれていた「おかえり」の一言が決め手だとは流石に誰も知らないだろう。
 彼女が遠見の丘を出て行ってから、畑の世話を手伝ってくれる妖精たちや池に住んでいるサハギンはいたけれど家の中は随分と寂しくなった。偶然一緒に生活をすることになっただけなのに、漠然と彼女とはずっと一緒に暮らすものだと思ってしまっていた。
 ——記憶もなく、自分のことも家族のことも分からないアインにとって、アリアの存在は大事な仲間であると同時に家族のような存在だったのだと漸く自覚したのだ。

「実を言うと自分ではパートナー、という形は想像してなかった。レーテの村長に言われてそういう関係もあるのかと気付いたけど」
「おや、そうなのかい? 私はアインのことだからずっと前からパートナーになることを望んでいるものと思っていたけれど」
「日常にアリアがいることが当たり前だったとはいえ、やっぱり人生のパートナーは重みが違う。彼女が同じ気持ちでいてくれないとこれまでの関係まで壊れてしまう可能性もあるし」
「アインさんも色々と考えてるんですね……」

 様々な想いを込めた指輪を用意して、彼女へ贈る。愛の告白にも等しいそれは流石のアインでも声が震えそうになるほど緊張するものだった。



「ただいま、アリア」
「おかえりなさい、アイン」

 冬土の節も終わりに近付いた遠見の丘は草木を覆っていた雪も少しずつ溶け始めていた。
 とはいえ、まだまだ寒い日が続いているし動植物が喜ぶ気候には程遠い。……一応、寒い気候で育つ作物や冷たい雪や氷のある環境を好む動物も存在するけれど、遠見の丘で育てている動植物にそのような種は多くはない。

「……やっぱりアリアにおかえりって言ってもらえる生活が一番しっくりくるかも」
「なにそれ」
「パートナーになる前に一緒に住んでいたときも、こうして迎えてくれていたから。どれだけ帰りが遅くなってもアリアがおかえりって言ってくれてたから絶対に家に帰ろうと思えたくらい」

 探索中、道に迷っているうちに日が暮れていたなんてことは多い。眠くなってきてその場に倒れてしまいそうなこともあったけれど、こんな魔物だらけの場所で倒れるわけにはいかないと思えたのはアリアという帰りを待ってくれている人がいたからだ。
 お陰で今では迷子になってしまったときも即座に帰れるようリターン・ベルをいくつか持ち歩いているほど。

「……あんたってそういう恥ずかしいことを平然と言うわよね」
「事実だし」
「それを真っ直ぐに言われる私の気持ちにもなってみなさい」
「自分がアリアの立場だったらそういう風に思ってもらえて嬉しいかも」
「…………本当、そういうところどうかと思うわ。まあ、私も嬉しくないわけじゃないけれど」

 人生のパートナー。その言葉に含まれている意味は人によって違うものだろう。
 恋人や夫婦のような関係を求めている人も、誰よりも信頼できる友達として側にいてほしいと望む人もいる。望んだ関係がどんな形であっても良い筈だ。
 アインもアリアに対してはいろんな想いを抱いていて、それらを引っくるめて「家族」として隣で生きることを望んだ。

「これから先も、あんたに色々と振り回されるのかしらね」
「それはお互い様だよ。それにアリアも、振り回されるのは嫌じゃないでしょ?」
「……まあ、相手があんたなら、たまには振り回されるのも悪くないかもね」

 何十年か経ったあとも、こうして一緒に笑っていられる関係を夢見ている。