ひとつ、ひとつ、を重ねた日々

「ただいま、アイン」
「おかえり、アリア。……何だか自分がアリアを出迎える立場になるのは新鮮だな」
「あんた、毎日遅くまであちこち駆け回ってるるものね。昨日なんてシュリカの手伝いで帰ってきたのは深夜だったし」
「先に寝ててもいいよって言ってるのにいつも帰りを待っててくれるアリアって優しいよね」

 ディアンサスに大事な用があるから、と朝から出かけていたアリアが帰宅したのは日が暮れてからだった。
 彼女がいつ帰ってきてもいいようにと食事の支度を済ませていたアインは彼女の声を聞いてパタパタと出迎える。今日はいつもより早めに帰宅しておいて正解だったかもしれない。お陰でこうして疲れて帰ってきたアリアをもてなすことが出来るのだから。

 普段、アインは朝の早いうちから家を出る。午前中は畑の世話の為に遠見の丘にいることも多いが午後になるとふらりと姿を消し戻ってくるのは夜だった。
 大抵は他の町で買い物をしたり、困っている人を見かけて思わず助けたり、そんなことをしていると時間が過ぎているだけなのだけれど。当然かつて共に世界を救った仲間たちに会いに行くこともある。
 昨日は確かアルジェーンでいくつかの仕事を引き受けていた。忙しそうに動き回っているシュリカのことを放っておけず、彼女の仕事の中から司祭や巡礼師でなくとも出来る素材集めや荷物運びを手伝っているうちに気付けば夜中だ。
 流石にアリアはもう寝てしまっているだろう、と思ったのだが帰宅したアインにいつもの優しい声で「おかえり」なんて声をかけられたのだから驚いた。

「アリアのおかえり、って言葉やっぱり好きだな」
「どうしたの突然」
「いや、アリアにいつもおかえりって言ってもらえるのが嬉しいからたまには自分もアリアに言いたいなぁって。きちんと伝えられて良かった」
「…………あんたって何というか」

 アリアは息を吐いて視線を逸らす。
 ——アインらしい反応だとは思うけれど、それに振り回される此方の身にもなってほしい。

「それよりアリア、夕飯の支度は済んでるよ。シャトラで酒場の仕事を手伝ったらマスターがお礼にって魚介類をいくつか分けてくれたから、それを使ってシャトラの料理を作ってみたんだ」
「アインが海の幸をメインに料理するなんて珍しいわね。普段は収穫した野菜やオムドリの卵を使った料理が中心だし」
「いつもは釣りをする時間があまりないからどうしてもね。目当ての魚が釣れないとメニューを変更する羽目になるし……個人的には魚も好きだけど」

 農業で生計を立てているのだからどうしても野菜が中心の生活になるのは仕方のないことだ。
 アリアが遠見の丘を出て行ってから暫く、一人暮らしをしていた頃はメニューの偏りなども殆ど気にしていなかったが彼女を正式にパートナーに迎えてからは二人で食事をするときのメニューにも気を配るようになった。

「アリアが食べたいって言うなら毎日でも釣りするけどね。アリアに喜んでもらえるなら自分としても幸せだし」
「あんたねぇ……そういうこと真顔で言われるとこっちもどう反応していいか分かんないわよ」

 そう言われることが嬉しくない、というわけでは決してないけれど。
 ——本当に、敵わない。色々な意味で。


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