聖夜の夢

 冬土の節。
 各地のシーズライトから程良い距離にある影響から季節によって様々な表情を見せてくれる遠見の丘もこの時期はひどく冷え込み、他の季節に比べると活気はない。
 広々とした畑にはチルドプラントやアルジェキャベツが植えられているくらいで、ランタンカボチャやビーナスビ、ゼンノウマメがずらりと植わっていた秋火の節と比べるとどうしても物寂しさを感じさせる光景だった。



「クリスマス?」
「アリアの時代にはそういう行事……って言うのかな。とにかく、一年の終わり頃にあったんだって」

 家族や友人、或いは恋人など。親しい間柄の人たちとパーティーをしたりプレゼントを交換するのだと確かアリアが言っていた。良い子にしていた子供たちにサンタクロースなる赤い服の老人がプレゼントを持って来てくれる日、だとも。
 この時代にはそのような行事は殆どない気がする。死季の日に記憶のない状態で目覚めてからアインはアリア以外から一度だってクリスマスという単語を聞いたことはない。
 ——ディアンサスであれば当然知っているのだろうが。

「それで、せっかくだし色々と料理を作ってみたんだけど」
「それはまた、唐突というか。……アインらしいけれどね」
「寒いと気分も落ち込んでくるし。温かい料理でも食べながらゆっくり過ごすのも悪くないと思って」

 もうすぐ春風の節を迎え暖かくなってくるとはいえ今はまだ空気も冷たく、油断すると風邪をひいてしまいそうな寒さだ。
 これでも冬のシーズライトに近いアルジェーンと比べると随分と過ごしやすいほうではあるだろうけれど。少なくとも遠見の丘はアルジェーンほど雪が積もることはない。

「パーティーと言ってもそんな盛大には準備出来なかったけどね」
「君の場合、普段から手の込んだ料理ばかり作っている気もするが……」
「趣味、なのかな。人に振る舞う以上は見栄えも拘りたくて」

 味さえ良ければそれでいい。胃の中に入ってしまえば全部一緒。そのように考える人もいるだろうがアインはそうは思わない。
 適当な皿に雑に盛り付けただけのハンバーグよりも、器にも盛り付け方にも拘ったハンバーグのほうが何倍も美味しそうに見えるし食欲もそそられるだろう。
 無論、自分が腹を満たす為だけに作った料理となると味はともかく毎回皿まで拘るなんてことは難しいが大事な家族や仲間の為に作るものであれば苦にならない。記憶を失う前の自分も料理が好きで凝り性だったのだと言われたら納得してしまうほど。

「アルジェーンの料理を中心に用意してみたんだ」

 寒い土地に伝わる料理だからか身体が温まるような料理や辛い食べ物が多い。
 食べるのに苦労するほどの辛さの料理は流石に作っていないから単なる食の好み以外で食べられないということはないだろう。

「アイン」
「うん?」
「クリスマスとはプレゼントを交換するものなのだろう?」
「自分も詳しくは聞いてないけどプレゼントを贈り合うのは珍しくないってアリアは言ってたような」

 高価なものを贈る人もいれば普段使いしやすい雑貨を贈る人もいる、と。
 相手の年齢や性別にもよるけどお菓子の詰め合わせやマグカップなんかは貰う側も気を遣わなくて済むしいいわよね——なんて口にしていたアリアの顔が過ぎる。
 食べ物の場合は相手の好き嫌いを把握している必要はあるだろうけれど。甘いものが苦手な人にチョコレートやクッキーを渡してしまうのはトラブルを招く可能性もある。

「なら、私も君にプレゼントを用意しなければならないな」
「…………自分もハイネにまだプレゼント用意してないけど」
「君は既に料理を作ってくれているだろう? それだけで十分すぎるさ」

 ——翌日、ハイネが又聞きした「クリスマス」なるイベントのイメージで作ってみたという小物入れがアインの枕元に置かれていたのはまた別の話。