「あんたがお人好しなのは知ってるし、私もその性格に助けられた一人だって自覚もあるけど、もう少し自分のこと優先しなさい」
朝から畑仕事。途中レーテの村の子供たちに誘われて彼らの遊び相手をして、夕方にはシャトラで迷子探しを手伝い、買い物に立ち寄ったアルジェーンの雑貨屋前で大きな荷物を抱えた老人を放っておけず荷物運びを手伝って帰ってくる。
全ての用事が終わったのは深夜。アインのこうしたルーティンは決して珍しくない。それどころかこれがアインの日常とさえ言える。途中で一度帰ってきて食事の支度を済ませてから再び出かける、なんてこともある。
アインのお人好しなんて恐らくアインと関わったことのある全ての人が知っていることだ。町に出かけたら彼に困っていたところを助けてもらったことがある、悩み事を解決してもらった、という住民はすぐに見つかるだろう。
「前に困ってる人を放っておけなかったから、って怪我して帰ってきたこともあったじゃない」
「あれは確か……ネメアの街からシャトラまで親戚に会いに行くって人の護衛で」
「力になりたいってあんたの気持ちも分からなくはないけど、そういう仕事は傭兵にでも任せればいいのよ」
例えばブラッカなら——報酬次第ではあるかもしれないが、今の彼なら困っている相手の依頼を理由もなく突っぱねるようなこともないだろうし。
少なくとも非戦闘員の護衛は自宅の敷地内で畑を耕し野菜を育てて生計を立てているアインが引き受けるべき仕事ではない。いくら彼が世界を救ったことのある存在だとしても、だ。万が一何かあったら責任も取れない。
「……って、お説教したところであんたは結局困ってる人を放っておけないんでしょうけど」
「まあ、アリアの言いたいことも分かるよ。最近は自分の時間をあまり過ごせていない自覚もあるし」
昨日はシャトラでマスターの仕事を少しだけ手伝ってからレーテの村で村長に頼まれてお使いをした。その前はネメアの街にある孤児院の手伝いをしに行ったし、ガイストに呼ばれて幻影城まで出向いたこともある。
育てていた野菜の収穫時期が重なって朝から晩まで畑仕事に勤しむことも多い。自由時間と呼べるものは殆どないと言ってもいい。
尤も、アインはそれを苦に思うような性格でもないのだけれど。
「あんたの実力は知ってるけど、それでもずっと帰ってこないと何かあったんじゃないかって心配になるのよ」
「心配してくれるんだ」
「それは……当然でしょ、家族なんだから。というか、あんたは私のこと何だと思ってるのよ」
「優しくて頼もしい大事なパートナー、かな」
アインの迷いのない発言にアリアは面食らう。彼は時折聞いているほうが恥ずかしくなるような台詞を躊躇いなく口にする。
——大事なパートナーだと思ってくれているのならあまり無茶ばかりしないでほしい、という言葉はギリギリで飲み込んだ。
「……うん、アリアを怒らせたいわけでも悲しませたいわけでもないからもう少し気をつけるよ」
「そう言って、結局誰かの為に動くことはやめられないんでしょうけど」
「それは……」
「アインが他人よりも自分のことを優先する、ってのもあまり想像出来ないし」
そのお人好しな性格は彼の長所でもある。誰かに騙されて都合よく利用される、なんてことにならなければ改善する必要があるものでもない。
……アインを騙して利用するような悪人がいたとして、その悪意を見抜かれたときに彼に勝てるとも彼から逃げられるとも思えないしそのような無謀な人はこの近辺にはいないだろうけれど。
きっとアインはこれから先も助けを求める誰かの為に行動する人だ。どんなに些細なことだったとしても、結局は見捨てることが出来ない。自分もまた、そんな性格を理解した上でパートナーになることを選んだのだ。
「…………あんたには一生敵う気がしないわ」
惚れた弱み、というのも違う気はするけれど何十年も彼のお人好しに振り回されるのもそれはそれで悪くないと思うのだ。