ハッピーエンドのアンコール

「アイン、ハイネのこと好きなの?」
「……はい?」

 かつての同居人でもあるアリアの言葉にアインは思わず目を丸くした。
 ハイネ。現在のアインの同居人であり、人生のパートナーでもある。彼とそのような関係になったのはもう一年近くも前のこと。
 世界を救う戦いを終えて、平和になったとき誰かと共に生きるのなら——と考えて彼に誓いの指輪を渡したことは今も鮮明に覚えている。
 レーテの村の村長から「人生のパートナー」の話を聞かなければそのような相手を求めることなど考えなかっただろうし指輪を作ることもなかった筈だ。
 彼のことが好きなのか。少なくとも彼に対する嫌悪感はない。それどころか死が二人を別つまで一緒に生きたい、と思う程度には好ましく思っている。仲間として共に戦っていた頃からそれは変わらない。
 素直にそう告げるとアリアは深い溜息をついた。

「……ごめん、言い方を間違えた。つまりハイネみたいな人がタイプなのかって聞きたいのよ」

 アリアの言葉にアインはフリーズする。
 ——正直、そんなことを意識したことは一度もなかった。ハイネは自分にとって信頼できる仲間で、相棒のような存在で、無二の友で。それ以外の関係が自分たちに当てはまる可能性すら考えたことがない。
 彼の顔が恋愛対象として好みかと言われたら答えは否だ。そも、彼に限らずではあるけれど人の顔を見て「この人がタイプ」だなんて思ったことがないのだ。
 だが、冷静になって考えるとハイネは美形に当てはまるタイプの顔立ちをしていると思うし違う出会い方をしていたらもしかしたら一目惚れをしていたのかもしれない。自分たちの出会いはレーテの村で発明品に使えそうなものを物色していたハイネがアインの存在に気付いて声をかけてきた……というものなので一目惚れなんてする間もなかったのだけれど。

「……その反応だと顔が特別タイプってわけではないみたいね」
「まあ、綺麗な人だなとは思うけど」
「でも、一緒にいたい相手なんでしょう?」

 アインは小さく頷く。
 彼と生活を送るようになってから約一年。赤の他人との共同生活なんて上手くいかないこともありそうだし、不満のひとつでも出てくるのではと思っていたのだが今のところそのような気配はない。
 ハイネが新しい発明品を思いついてニコニコと説明してくれる姿は——正直詳しくないアインには何を言っているのかその全てを理解できてはいないけれど——聞いているだけで自分まで楽しくなってくるし、家に帰るとハイネがいてくれるだけで安心感を覚える。
 これは要するに相手に対して恋愛的な好意を抱いているのでは、と思わないこともないが今となっては自分でもよくわからないし彼へ向けている感情が恋でもそれ以外のものでも、どちらでも構わない気がする。

「アインがハイネとパートナーになるって聞いたときは驚いたけど、幸せそうで安心したわ」
「あの時は突然だったからね」
「今までそんな素振りすら見せなかったものね」

 どんなに苦しいことが待ち受けていてもこの人と生きていきたい、と思えるような相手に出会えることはきっととてつもないことで幸せなことなのだろう。



 その日の夜。家に戻ってきたアインの姿を見ておかえりと出迎えたハイネは「そういえば」と口にした。

「アリア君に会いに行ってたんだろう?」
「そうだけど……ハイネに伝えてたっけ?」
「ああいや、ブラッカが仕事でこの辺りまで来ていてね。アインがアリア君と話しているのを見かけたと聞いていたんだ」

 アリアは比較的気軽に会いやすい場所に住んでいるが彼女がレーテの村の辺境で暮らしているのもあって村の中でばったり会うということは意外と少ない。
 意識してアインのほうから会いに行くこともあるけれどお互いに忙しいとタイミングが合わないことがある。今日彼女に会いに行ったのも、元々はここ暫くアリアと会えていなかったからに他ならない。
 危険な場所へ出かける時はかつての仲間たちに声をかけて協力を仰ぐこともあるがそんな機会も以前と比べて減ってしまった。尤も、プライベートでお互いに手紙のやりとりをする機会はそこそこあるのだが。
 それにしても、ブラッカがこの辺りまで来るなんて珍しい。もちろん彼の仕事を考えれば教都アルジェーンだけでなくレーテの村を訪れることもあるだろうし翡翠の森やしじまの洞窟のような危険な場所へ行かねばならないこともあるだろうけれど。
 見ていたなら声をかけてくれたらいいのに、とも思うがもしかしたら気を遣って声をかけなかったのかもしれない。

「今がとても幸せだなぁって、アリアとそんな話をしてきた」
「……アイン?」

 今となってはハイネが隣にいない生活など、考えることも出来ない。
 アリアが家を出てから暫くは一人で暮らしていたしそれが当たり前で何の違和感もなかった筈なのに、家に帰ったときにおかえりと優しく出迎えてくれる人がいないだけで寂しさを感じてしまうほどに。
 これから先、ずっとそばで笑い合っていられたらそれはきっと幸せなことなのだろうと小さく微笑んだ。