吐き出した精と同時に、脳が冷静さを取り戻す。自分の下で力無く目を閉じ荒い息を繰り返している篠崎を見て、明日がお互い休みで良かったなと一人安堵する。
 回数を重ね、不本意ながら最早無くてはならない物とさえ化した性行為は今夜はどちらがきっかけであっただろうか。相手の反応が得られる行為ばかりを夢中になってするため、実際自分がついさっきどういう流れで何をしたのか曖昧な部分は多々あるが伝えた言葉は全て本物だ。伝えられる好意も、伝える好意も、全てがドロドロに溶けていく。そんな夜。
 俗に言う賢者タイムとやらに支配され、怠い身体を起こす。うとうとしている篠崎はこのまま寝かせて、身体を拭いてやろうと立ち上がろうとした瞬間「待って!」と声が上がった。寝るものだと思っていたばかりに、その予想外にも大きい声量に身体が無意識にびくり、と大きく震えた。
「び、っくりした」
「シャワー浴びんの?ちょっと待って、いや、待たなくてもいいけど……ゔゔ、俺寝そうだし、あの」
「……浴びるにしても先ずはお前の身体をどうにかしてからだから時間はある、どうした?」
 日付の変わった時間帯、ましてや身体を交えた後にこんなに元気な篠崎は久し振りに見た気がする。まさかもう一度してほしい、という誘いだろうか。腰の調子は明日筋肉痛になりそう、という自覚があるほど節々に痛みはあるが頑張らないことも……?も一人思案気な顔をしていると、薄手の毛布を頭から頭巾のように被り部屋から出ていく。
「なんなんだ?」
 予期せぬ行動パート2に頭に疑問が浮かぶ。が、考えても分からないものは分からない。まあ、怒っていたわけではなさそうだし、あの口振りからすると言い難い何かがあったんだろう。それを無理に聞くのもいかがなものか。気長に帰りを待つと、隣の部屋から聞こえていた物音が止みドアが開かれる。他には小振りな箱が1つと、両手で包み込む程度の箱が1つ。一見では何か分からないそれを毛布にくるまったままの篠崎は手だけを伸ばして渡してきた。
「俺に?」
「……うん」
 箱を受け取るや否や、ベッドの上に戻り頭まで毛布を被ってしまった。真意を測りかねていると、ぽつぽつとくぐもった声が聞こえる。
「本当は、俺も用意してた。流れで渡せば良かったんだけど、なんかイマイチ言い出せなくて、だからそれは俺からのチョコってことで……」
 後半もにゅもにゅ、と小さくなる声を聞きつつ箱の中身を開ける。与えられた時点で俺のものだし、許可はいらないだろうと判断してのことだった。中には更に色取り取りの箱が入っていて、どうやらチョコレートが入っているらしい。パッケージに書かれているかかお、という文字を見ての判断だが。
「……終わっちゃったけど、バレンタインだから、お前に」
「買ってたんだな」
「買ってた!!」
 がばっと布団から出てきた篠崎の顔は真っ赤に染まっていた。今まで恋人がいなくとも、友人などには渡したりしていなかったのだろうか。他人に贈り物をするのが初めてかのような反応を見せる。俺相手だからか?と一瞬そんな疑問が頭を過るが、自意識過剰になりつつある自分を頭の中だけで制した。まあ、なんだ。この状況で恐らく正解な反応であり、率直な感想といえば。
「ありがとう。……かわいいなお前」

 うるさい!と布団に再度籠る篠崎を突けば、直ぐさま顔だけ布団から覗かせて反応を見ているようで、忙しない奴だなと笑ってしまった。



はるのはこ