「意味が分からないんだけど?」
 困惑しているような、怒っているような。なんとも形容し難い表情で篠崎は俺に問う。その態度に怯むことなく距離を詰めると、表情に浮かぶ困惑が更に色濃くなったのを感じた。
「言った通りだ」
「え、……でも」
「篠崎」
 パチパチ、瞬きを何度も繰り返す。俺の申し出に迷っているのが手に取るように伝わる。ここまでくれば後一押しだ。押しに弱い性格を利用させてもらうとしよう。ずるい人間という自覚はあったが手段を選んではいられない。
 再度距離を詰めると篠崎の背中がとん、と壁にぶつかった。後退るにもこれより後ろはない。正面には自分に迫る俺。横に逃げようとする目の動きを見逃さず壁に手をついて進行方向を妨げると観念したように篠崎は眉を八の字に下げた。
「別に、痛いことや酷いことをしたいって言っている訳じゃない。……のは分かるよな?」
「わかる! わかるけど……」
「頼む」
「う、うう……ううう……」
 わかったと、聞こえるか聞こえないかの一言を篠崎が漏らしたのはそれから数秒後のことだった。勝った。勝利が確信に変わり一息つく。しかしのんびりと安堵してもいられない。篠崎の気が変わらない内にと直ぐに部屋に行き、交渉していたブツを手にリビングに戻る。それを見た篠崎が露骨に顔を赤くして俺を睨むのがわかった。
「今更やっぱ嫌だは認めないからな」
「……だめ? 絶対?」
「絶対だめ」
「……大体、なんでそんな……、セーラー服なんて持ってんだよお前!」
 リビング中に響いた悲鳴にも似た篠崎の声を右から左へ。押しに勝った俺はその手荷物女物の制服を篠崎に問答無用で押し付けるのであった。今日も平和な一日だ。


はるのはこ