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甘い雰囲気には程遠いの続き
町はまたもや色めき立っている。なぜなら今日がホワイトデーだからだ。
ちょうど1ヶ月前、私が訪れていたのとはもちろん違う町なのだけれど雰囲気は同じだった。
ちょっと違うところは、いちゃつくカップルが増えたことだ。大方バレンタインで結ばれたのだろう。
公衆の面前でいちゃいちゃと、まったく腹立たしいことこの上ない。
そんな道を通り抜け、私はポケモンバトルクラブへと入った。こんな日だから、バトル相手になるようなトレーナーは来ていないとは思うけど。
「うげ、」
「なんだい、人の顔を見るなり変な声を上げて。僕に対して失礼だと思わないのかい?」
いいえ、失礼だなんて微塵も思いません。
なんて言いかけて、思い止まった。
その代わりに「シューティーはホワイトデーなのに暇なんだねぇ」という嫌味を送ってやった。前に会った時に似たような嫌味を言われたのでそのお返しだ。
「………」
シューティーはその言葉に何も言い返さなかった。珍しく無視を決め込むつもりらしい。いつもなら一を十で返す勢いで言い返してくるのに。
ぐるりとバトルクラブの中を見回してみると、室内には私とシューティーしかいないようだった。なぜかドン・ジョージの姿も見当たらない。
というか、なんかデジャヴ?
「ジョージさんなら急用が出来たらしくて少しの間、出かけるってさ」
私が疑問に思っていることを察してか、シューティーがそう言った。そして「僕は暇だからここに来てるんじゃないよ」とも。
「じゃあ、何しに来たのよ」
「わからないのかい?それくらい察して欲しかったんだけど」
はあ。察しろと言われましても。
残念ながら私には皆目見当がつかない。
私はホワイトデーというイベントに関係がなくて暇をしているからここへ来たし、それはシューティーも同じなんじゃないだろうか。
ちんぷんかんぷんな私の様子を見て、はぁー、とあからさまにため息を吐いたシューティーはポケットから小さな箱取り出して手渡した。
「はい」
「え…?」
「なに、これ」
「わからないの?お返しだよ、バレンタインの」
「え?お返し…?」
「くれたでしょ、貧相なチョコ」
その言葉で思い出した。そういえば1ヶ月前、彼を哀れんだ私はバレンタインとしては貧相な、ちょうど持ち合わせていた板チョコをあげたのだ。
「ただの板チョコだったのに、こんな、わざわざ…」
「僕は律儀な人間だからね。ちょっと悪かったかな、って思う気持ちがあったら来年はちゃんと用意しなよ!」
…え、え?今、来年って。
少し照れたようにまくし立てたシューティーは「バトル相手がいないから帰る」と言ってそそくさとバトルクラブから出ていってしまったのだけれど、もしかして、これは、自惚れてもいいのだろうか。
はちみつレモンキャンディ
ここに来たのはキミに会うため、だよ!
(2011/03/13)