私は旅をしていた。
各地で開かれるポケモンコンテストに出場するために。

私は、ポケモンコーディネーターだ。

勿論、私の夢はコーディネーターなら誰でも憧れるであろうトップコーディネーターになること。
そのために日々、ポケモンたちを、自分を磨き、トレーニングを積み重ねている。


そんな私が今いるのはとある洞窟の入り口。次にコンテストが開催される街へ行くためにはここを通らなければいけなかった。

「――!――!!」

「なんか、声がする…?」

いざ、洞窟の中へ入ろうと足を踏み出そうとした時、誰かの声が聞こえた。
もしかしたら、洞窟に入った人が野生のポケモンに襲われてしまったのかもしれない。そう思って、私は急いで洞窟の中へ足を踏み入れた。


そこで見た光景はひどいものだった。


「この!この!」
「お前、気持ち悪いんだよ!」

洞窟の中は薄暗かったが、はっきりと見ることが出来た。

子供が、数人がかりでポケモンを使って野生のルージュラに攻撃をしていたのだ。

「ちょっと、アンタたちやめなさい!」

私がそう怒鳴ると子供たちは「やべ!逃げるぞ!」と一目散に走って先程私が入ってきた入り口から洞窟の外へと逃げ出していった。

「大丈夫!?ひどいケガ…!」

慌てて駆け寄って、キズぐすりを取り出す。私が声を掛けるとルージュラは笑顔で「ジュラァー」と鳴いた。
多分、お礼を言ってくれたのだろう。

「手、出して。処置をするわ」

私がそう言えば、ルージュラは笑顔のまま私にそっと手を差し伸べた……かと思いきや、さっと手を引っ込められてしまった。

先程のこともあるし、人間を警戒しているのだろうかと少し悲しくなったのだが、それは違った。

ルージュラは引っ込めた手を上の方へ向け、技を放ったのだ。…私の真後ろにいたゴルバットの群れへと。

全く、気が付かなかった。

ルージュラのことに気を取られていたからかもしれない。

しかし、すごかった。
数十匹はいたであろうゴルバットをたった一発のサイコキネシスで倒してしまったのだから。

――この子、本当はすごく強いんじゃないか。
この子となら、ルージュラとならきっと…!


今度こそは、とばかりに手を差し伸べたルージュラの手を私はそっと取った。

「ねえルージュラ、良かったら私と一緒に来ない?
私ね、トップコーディネーターを目指して旅をしているの。私、アナタとコンテストに出てみたいって思ったわ。私の手で、アナタを輝かせたい!」

ルージュラは笑顔で私の手を優しく握り返した。

いつか、きっと。
グランドフェスティバルの舞台でアナタを苛めていた子供が驚くようなとびっきり美しい演技を魅せてやりましょう!




(2011/07/01)
小説ポケモン図鑑に提出しました。