ああ、暑い。初夏と呼ばれる時期を終え、とうとう本格的な夏が始まったのだと、じりじりと照りつける太陽がそう訴えているかのようだった。

しかし、この場所は幾分かはマシだ。テニスコートのフェンスを越えた先にある木陰の、仁王先輩のとなり。いつだったか、柳生先輩が「仁王くんは涼しい場所を探すのが得意なんですよ」と話していたことを思い出す。本当にその通りだ。日照りによって火照った体を落ち着かせるには、ここはとても最適だと思う。

「なあ、ソフトクリームが食いたくなった」

仁王先輩が、こちらに視線を向けることなく呟いた。仁王先輩の視線の先を辿ってみると、そこにはぴょこぴょことボールを拾いながら走り回る部員がひとり。
ああ、なるほど。彼が動くのに合わせて揺れるチャームポイントを見て納得する。私も食べたい、ソフトクリーム。いくらこの木陰が日差しの中よりは涼しいからと言って、クーラーが効いた部屋とではまるで違うのだ。冷たいものを食べて体の中まで涼みたい。

「でも私、コーン苦手です」
「なんで?」
「だってもそもそするし。最後にあれだけ残っちゃうし」
「あー、なるほどな」

なんて、くだらない雑談をしていたら、いつの間にかさっきまで目で追っていたあのソフトクリーム…じゃない、浦山くんが私の目の前にいた。

「ちょっと!何サボってるでヤンスか、マネージャー」
「休憩だよ休憩。だってあっついじゃん」
「そういうのはちゃんと仕事やってからにして欲しいでヤンス。ドリンク、切れてるでヤンスよ」
「えー」
「えー、じゃねぇでヤンス!ほら、もう!」

浦山くんが私の手をつかんで立たせたかと思いきや、そのまま引っ張られるので、仕方なく、されるがままに足を動かすことにした。仁王先輩が「頑張ってきんしゃい」って手を振ったから、浦山くんに捕まれていないほうの手で振り返しておいたけど、正直暑くてやる気がでない。暑い。だるい。めんどくさい。副部長が聞いたら怒りそうだけど。

そんなことを考えていたら、私を引っ張ってずんずん進んでいた浦山くんが急にぴたりと止まった。

「コーンじゃないソフトクリーム」
「え?」
「おまけにチョコとかもトッピング出来るお店、連れてってあげるから、それまで頑張るでヤンス」
「……うん」

今度は、私が浦山くんを引っ張って歩き出す。「まったく、現金でヤンスねぇ」なんて、苦笑いする声が後ろから聞こえたけれど。現金で、いい。暑いのに未だに繋がったままの手とか、名目上の放課後デートだとか、苦手なコーンがない冷たいソフトクリームが食べられることだとか、それだけ。たったそれだけのことで私はこんなに幸せいっぱいになれるのだから。

Happy Birthday To Shiita!

(2013/07/03)