これの続き

5時間目の授業なんてモンは寝る為にあると言っても過言じゃねぇ。それが数学なら尚更。
現にクラスの大半は黒板には目を向けず、俯いてしまっている。大きく船まで漕いじゃってる奴もいるくらいだ。

そんな中珍しく俺が起きていられるのは、きっといつもよりさらに早い早弁をしたせいで満腹感がとうに過ぎていたことと、昼休みに後輩とストロークをすることで適度に体を動かしていたからだと思う。多分。

「…じゃあ、この問題を苗字!解いてみなさい」
「えっ、は、はい!」

ガタッ、と大きな音を立てながら慌てて椅子から立ち上がったのは、俺の小学校からの友人のあいつだった。
あの慌てようからして、たった今先生に指名されたこいつもきっと眠りこけていたに違いない。ただえさえ数学が苦手なあいつは「うー」だの「あー」だのと呟くだけだ。

あーあ、可哀相に。珍しく授業をちゃんと聞いていた天才的な俺は、答え解ってるんだけど。生憎あいつと俺の席は教えてやれる程は近くない。悪く思うなよ。

「あっ、えっと、3X、です」
「よし、正解だ。座っていいぞ〜」

あいつは無事答えられたことに安心したようで、ほっとした表情で胸を撫で下ろしていた。数学教師のおっさんは、何事もなく黒板へと向き直り、さっきの問題を解説するためにチョークを走らせた。

けど、俺はしっかりと見ていた。

仁王が、あいつにこっそり答えを教えてるところを。


****


「仁王くん、ありがとね。助かった」
「別にええよ。ぐっすり眠っとったからのう」
「だ、だって5時間目の数学って眠くなっちゃうんだもん」
「ま、気持ちはわかるぜよ」
「でしょ?あ、この飴お礼にあげる!」
「おー、ありがとさん」

あいつら、ちょっと前まで席が隣同士にもかかわらず一言も喋らなかったクセに、随分と仲良くなったもんだよな。まあ、そうさせたのは俺なんだけど。

次の授業の準備をするために席を離れたあいつを見送ってから、さっき貰った飴を愛おしそうに眺めている仁王の表情は、"コート上の"とはいえ詐欺師と呼ばれているなんて到底思えないものだった。正直、ちょっと驚いた。柳が見たら、きっと新たなデータが取れたって大喜びしそうなくらい、その表情はすんげー優しくて、そんで柔らかかった。

そんな仁王を眺めてたら、俺まで笑顔になっちまう。部活仲間と幼馴染の仲がうまくいっているということは、俺にとっても喜ばしい。それに、人の恋路って、超おもしれぇ。

良かったな、仁王。いつもは寝て過ごす数学だけど、今日はちゃんと授業聞いていて。

俺も、面白いモンが見れて良かったぜぃ。

たまにはこうやってちゃんと授業を聞いてるのも悪くはねぇかもな。


(2013/01/31)