時刻は午後1時を少し過ぎた頃。ちょうど太陽が真ん中まで昇る時間。たぶん、真夏の暑い1日の中でも最も暑い時間が今なのだろう。私は、額からたらりと流れ落ちた汗を腕で拭った。生憎私には流れ落ちる汗をハンカチで拭くようなおしとやかな一面など持ち合わせてはいない。ふと、隣に立つ幸村を見ると持参してきたタオルで汗を拭っていた。私もハンカチとかタオルくらい、ちゃんと持ってくればよかった。
「屋上、暑いね」
「そうだね」
まずは、結果を話しておこう。
私と幸村は、結局附属の高等学校に進学してもなお、同じクラスになった。しかも、先日の席替えでとうとう隣の席にまでなってしまった。つまり、幸村の心配も杞憂に終わったわけだ。まったく腐れ縁もいいところである。けれど、それは私たちにとって喜ばしいものであった。
そして同じクラスになったとはいえ、私たちは美化委員会に所属した。なぜかといえば、やはり花の世話をしたいと幸村が思っていたこともあるし、まだ来年以降にもクラス替えが控えているからである。よっぽど幸村は私と離れたくないらしい。それは、私もなのだけど。
だから、屋上庭園の世話をしたいというお願いを美化委員会担当の先生に受け入れて貰えたことはとても嬉しかった。
実は、チューリップの花が咲いたら幸村に伝えようと思っていた言葉は彼に先を越されてしまって、少しだけ悔しい思いをしたのだが、それでも私は今、すごく幸せなんだと思う。
「あっ、綺麗に咲いてる!」
「本当だ。ちゃんと上を向いてるね」
チューリップの時期が終わった後、この屋上庭園には向日葵の種が植えられ、今日までに私の身長に負けないくらいの生長を見せていた。しかしここ数日、やや曇りがちな空だったためか大きな向日葵の花は首、もとい茎をうなだらせ、元気のない様子だったから私も幸村も心配していた。
だけど太陽が昇り、爛々と輝いている今日は太陽のほうへと真っ直ぐ顔を向けていて、心なしか向日葵が喜んでいるように感じる。
「まるで太陽を見つめているみたい」
「フフ、そうだね。向日葵の花言葉には、あなただけを見つめているって意味があるからね」
「へえ、そうなんだ」
「俺も和泉のことだけを見つめているよ」
「はっ…」
私たちの関係が少し変わってから、いや、もっと言えば卒業式の日から幸村はよりいっそう積極的になった。あのときは私と少しでも離れること寂しがっている彼のことを可愛いかも、なんて思っていたのに。今はそんな可愛さは微塵も感じられなくて、どこか余裕を感じる。そんな幸村だって私はもちろん好きなのだけど、やはりやられっぱなしは悔しい性分なのである。
だから、私もお返ししてやるのだ。
「私も、幸村のことだけ見つめてるよ」
「…そう、ありがとう」
ふわり、と幸村は例の私が好きな、女顔負けの笑みを浮かべた。ああ、きっと照れてるんだなあ。ほんのりと幸村の耳が赤くなっているのが見えた。それに気付いたのであろう幸村は、あくまでさりげなく、私から目を逸らした。
やっぱり、彼は可愛いひとだと思う。
そんな彼への愛しさが、私の中でまた一段と大きくなった。
夏の花 向日葵
花言葉:あなただけを見つめている
(2012/08/13)
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