秋が過ぎ、冬が来て。花は枯れて、屋上庭園の花壇はすっかり寂しくなってしまった。雑草が綺麗に片付けられ土がならされている花壇には、春に向けてチューリップの球根が埋められている。中学の美化委員たちと共に作業したのは記憶に新しい。
だけど、それではあまりに殺風景だということでプランターに花を植えて育てることにした。プリムラの花だ。正式にはプリムラ・ポリアンサという。土の近くで咲くそれほど大きくない花だけど、色鮮やかで可愛らしい花だ。

プリムラという名前の響きが幸村に似ていると言って和泉が笑っていたことを、プランターで咲く花を眺めて思い出す。外見は俺には似てもつかないけれど。確かに響きは似てるかもしれない。なんとなく、親近感が湧いてきた。

「幸村」

「ああ、和泉か。やっと来た」

「ごめんね、寒い中待たせて」

なんて。実際にはそんなに待ってはいないんだけど。
和泉に放課後、屋上に来て欲しいと呼び出されたのは今朝のことで、俺はHRが終わった後、直ぐ様身支度を整えて屋上に来た。とはいえ同じクラスだからHRが終わる時間も一緒な訳で。待っていたのはほんの2、3分程度だった。

いつも一緒にいるのに、そして今日は互いに部活が休みだったのに、和泉がわざわざ俺を屋上に呼び出した理由は分かっている。今朝、放課後に屋上へ来て欲しいと言ってきた時、やけにそわそわしていたのも、どこかよそよそしい態度であった理由も。目の下にほんのちょっぴりできたクマも。全部。いつもはありがたく受け取っていたクラスメイトや名も知らぬ女子からのそれを、今日俺は何度断ったことか。
全ては今日という日、2月14日に行われる宗教的記念日に起因し、和泉が後ろ手に隠しているものに答えはある。

「これ、うまく出来てるかわかんないけど…」

「ありがとう、嬉しいよ。大事に食べる」

「う、うん。味見したから味は大丈夫だと思うよ、たぶん」

やっと、やっと貰えた。一番欲しい和泉からのチョコ。
去年までも貰ってはいたのだけれど、それは友達に渡す…いわゆる義理チョコであった。ようやく、ようやく待ち望んでいた彼女からの本命チョコだったんだ。

「本当にありがとう、流華」

下の名前で呼んだのは初めてかもしれない。恋人たちが過ごすというクリスマスイブだって、二人きりで過ごしたのに。その時でさえこんなに気持ちが高ぶらなかったように思う。俺たちの関係はきっと、どこか友達の延長でもあったんだ。俺は気にしたことがなかったのだけど、俺たちはファーストキスすらまだで、それを聞いたブン太にすごく驚かれたことだってあった。

でも、今は、こんなにもしたい。
そっと流華の頬に手を添えてみる。流華の頬はほんのりと赤くなっていたけれど、添えた手を拒むことはなく、そっと目を閉じた。

ああ、もう、ダメ。とてつもなく愛おしい。好き。好きだよ。
ホワイトデーはまだ先だけど、少しだけお返しさせて欲しい。プリムラの花言葉、無言の愛を。どうか受け取ってくれないか、俺の無言の愛を。


冬の花 プリムラ・ポリアンサ
花言葉:無言の愛


(2013/2/15)


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