※竹谷が故人
先輩が用事で町へ行くというので、暇だった私はついて行く事にした。別におもしろいことなんかないよ、と彼女は言うが、私は先輩のきれいな背筋を、揺れる髪を、そっと見つめるだけで十二分に有意義な時を過ごせるのだった。
帰り道、陽はもう傾いていた。私たちの影が道に長くのびている。先輩と過ごしていると、時が過ぎ去るのが早い。こんどはあんみつを食べに行こうか、そう言う彼女に今度こそは自分が奢らなくては、そう思った時だった。
「あ、八左ヱ門」
駈け出した先輩とは対照的に、私はその場に立ち尽くした。身体の機能がすべて止まってしまったように思えた。ややあってからようやく、体が冷たい汗をかいているのを感じた。頭もやっと動き出した。だって先輩、八左ヱ門はもう、この世には−−−−−−
慌てて彼女の後を追った。
先輩は道端にしゃがみこんでいた。何を、と思いそろそろと横に立ち、手元を覗き込むと、野良犬を撫でていた。
「おお三郎、見ろ八左ヱ門だ」
先輩はまたあいつの名を口にした。見ろ、というのはこの犬のことだろう。丸い黒い目と、灰がかった、野良にしても荒れた毛並み。
「……先輩、八左ヱ門は死んだんですよ、ついに頭がおかしくなったんですか」
軽口を言えたことにほっとする。先輩は犬をわしゃわしゃ撫でたまま、あろうことかこんなことを言い出した。
「ああ、だから死んで今度は犬に生まれたんだよ」
先輩は大真面目にそう言った。いつも通り、しっかりと強い眼だった。
「お前よかったなー、フジツボにならなくて!」
犬もそれにワンと吠えて返す。尻尾をちぎれんばかりに振っていた。
「いやいや先輩、だから八左ヱ門は」
「三郎は輪廻転生を信じてないのか?まあ私もそうだったんだけどな、こいつを見てみろ、八左ヱ門でしかない」
ほれ、と抱き上げた犬を目の前に出される。そう言われても私にはただの犬にしか見えない。
「三郎は薄情だなー、なあ八左ヱ門」
犬も犬で先輩に応じて鳴いている。先輩、ほんとうに気が違ってしまったのではないか。普段からどこかつかめない、不思議なひとではあったけれど、こんなことを言い出すなんて初めてだった。先輩は八左ヱ門と仲も良かったから、それゆえに犬に転生しただなんて思いこんでしまったと考えてもおかしくはない。
「しっかしまあ本当にハチ公になってしまって、あはは……ああ、すまんすまんハチ。そういや、飯はちゃんと食えているか?…そうか、よかった。たくましいなー…学園には行ったか?いや来てたら私が気づいてたな。ううーん連れて帰りたいなあ私最近爬虫類以外の動物に会ってなかったんだよなあどうだい八」
「先輩!!!!」
出した声は荒だっていた。
「…三郎、私の頭は残念ながら正常だよ」
先輩は睫毛を伏せて、またゆるく犬を撫でる。
「うーんでも三郎がそんなに心配してくれるんなら他のやつらもそうだろうなあ…。一緒に帰るのは無理そうだ、すまんな八左ヱ門。今度おばちゃんに弁当を頼んで持ってくるよ。兵助も豆腐分けてくれるかな…あっでもお前がどこにいるかわからないな…ん、このあたりにいつもいるのか?じゃあ来たら呼ぶぞ。ちゃんと返事してくれないと私泣くからな」
元気でな、先輩にしてはかなり明るい声でそう言って、駆けていく犬に手を振る。そうして私に向きかえり、ほんとうに何もいつもと変わらないかおをして、少し笑った。
「さあ帰ろうか、三郎」
私は手を取られたことにも反応できないで、呆然としながらも、足だけはしっかり動かした。
続きが迷走したのでボツ
あと主人公のキャラを見失った
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斜掛