こんなに集中して鍛錬に励めたのは久々だ。私昨日ひどい目にあったのに今日早朝から己を高めるために修行しててえらくないですか。えらい。よし今日こそは甘味処へ行こう。
という訳で尊くんの部屋にお誘いに来ました。奴めまだ寝ている。まあ昨日は書類に追われてへろへろだったし、今日はオフだから寝坊も許されるのだけれど。それにしても人の気配くらい察して起きた方が良いのでは、プロ忍。のはしくれ。
まぬけに口を半開きにしてすやすやとまあ気持ちよさそうに眠っている。私は布団の傍に座って、彼の頬をぐにっとつねってみた。
「んひゃ……わっ、名前!?」
「しまった寝起きドッキリでも仕掛ければよかった」
割とおどかせたのでまあいいか。
「な、なんで」
「お誘い」
「は、はあ!?」
「甘味処の」
「あ、ああ……」
「朝餉食べたら即準備だからね」
返事が無かったけれど伝えたいことは伝えたので尊くんの部屋からは退散した。何やら彼の背中には哀愁が漂っていた。私らここじゃ一番若者なんだから頑張ってほしいものだ。
運動の後の食事ってすばらしい。白米がいつにも増して輝いて見えた。鍛錬は集中できたし朝餉もおいしくとれたしきっと今日は良い日だな。
「という訳で尊くん、早く行くぞ」
「お前今食ったばっかだろ」
「甘味は別腹、基本でしょう。早くしないと売り切れる……というか食べたい分全部用意できなくなる、多分。組頭から資金援助も頂いたし」
「組頭が…? わかったよ…」
よっこらしょ、と腰を上げる尊くんに爺くさいと言ったら、近くにあった座布団を投げられた。まあよけるけど。尊くんを待つために一旦廊下に出た。今日も天気が良い。
「……また男物着てるのか」
「悪いか」
「うーん」
「男児たるもの意見ははっきりと」
「うーん……」
なんだよその微妙な反応。万全の体制で町への道を歩いていると、なぜか服装にダメ出しをくらった。
「何、尊くん町娘みたいな私とデートしたいの」
「いや、その」
「そんなことしてたら、尊くんの出会いが無くなるよ」
「お、お前だって、普通にしてりゃ声かけられるだろ。なんで休日まで男装して…」
「むさい男に話しかけられるより女の子に囲まれる方が良い」
「お前なあ…」
「私の方がモテるの気にしてんの?」
「馬鹿」
尊くんはまだ不服そうな顔をしていたがおとなしくなった。なんなんだ。眩しい太陽に目を細めながらも町を目指した。
「団子追加お願いしまーす」
「は、はいよ!」
はあ幸せ。卓に並ぶ団子たちを着々と腹に納める。向かいに座る尊くんも、なんだかんだで甘味を味わっている。組頭がお駄賃くれたもんね。ごめんよ本気で全部払わせようとしていた訳じゃないんだよいや本当に…
次々と平らげる私を店内の人が好奇の目で見る。見世物じゃないんだけどなあ…っと、美人と目が合った。私が口の中のものを飲み込んで薄く微笑むと、彼女はさっと目を逸らした。少しばかり頬を染めて。うむ愛い奴め。
「ん〜食った食った。よし次行こう」
「次!?」
「あんまり一つの店だけに居ると迷惑でしょう」
あわてて食べかけを口に押し込む尊くんを後に会計をして、外に出ようとした。
…視線を感じる。私の、腰元の、刀に。
まあいいか。別に丸腰で休日を楽しみに来た訳ではない。それに今日は尊くんも一緒だ。タソガレドキ城忍軍の若手の力を舐めないでもらいたい。
それから数軒まわって、ついでにお昼にうどんも食べて(尊くんは要らないと言った)、ちょっと店をひやかしに歩いた。
「おお、この簪きれい」
「…買ってやろうか?」
「尊くんそれ今の私に言うとギャグだよ…あと値段見てよほれ」
「…こんなもん頭にのっけて生活する奴がこの世にはいるのか…」
「世知辛いね…っと!?」
話しながら歩いてたら前から来た女性にぶつかってしまった。しかも尻餅までつかせてしまった。なんてことだかよわき乙女に…!
「も、申し訳ありません!」
あわてて駆け寄り彼女を起こそうとする。あれ、この紅紫の着物、栗色の髪、さっき見たな。
「いえ、こちらこそ余所見を…」
凛とした顔立ちとすこし低い声音。ああそうか、さっきの甘味処で目が合った方か…なんの運命だ。いやちょっとドキドキしますね。
私が差し出した手を彼女が掴む。…ん? かたい。ごつごつしている。手のひらに感じる肉刺の跡。
「ありがとうございます」
立ち上がった彼女の上背は私より幾分高い。ああそうか。そうですか。ときめきを返せばかやろう。
立ち上がっても手は離れない。それどころか少し力が強くなった。訝しげにその整った顔を見ると、すこしばかり首を傾げて薄く微笑んだ。うわやめろ、鳥肌立った悪い意味で。
「で、ではお気を付けて。行くぞ尊奈門」
「あ、せめてお名前を」
「名乗るほどのものでは!」
「あ、おい! あっ失礼しますね」
ダッシュでその場から立ち去った。やだあの人めっちゃこわい。助けたのに手つかんで力込めるってどういう神経してんだよ。
「何で逃げたんだ? そんなに好みの顔だったのか? お前もしや本当にそっちに…」
「違うわ! 私は女の子は愛でるだけ…それにあれは女人じゃなかった」
「え?」
「忍者だよ」
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