(アニメ寄り女装回)
最低賃金を大幅に下回る時給じゃ大学生活はやっていけない。そのため私は、霊幻さんのところだけでなく他にもバイトを掛け持って生活している。高校の頃からやっている前者よりも後者のほうが、最近ではむしろ本職になりつつあった。元々私はちょっと視えてちょっと念動力を使えるだけなので、あんまり戦力にならないのもあるけれど…。モブくん様々な職場である。そんな事務所へ久々に顔を出したら、異様な光景が広がっていた。
「うわあ……」
何やってるんだこの人たち。アポが取れなかったから制服来て女子校突撃って…捕まるだろ普通…そもそもそれどうやって調達したんだ。
「霊幻さん、スネ毛剃りましょうよ」
「いいんだよ、これがファッションだ」
「まあスポーツもなにもしていない成人男性が脛ツルツルだったら普通引きますからね」
「お前分かっててそれ言ったのか!?」
「いやでも女装はきちんと…」
わざわざ髪色に合わせたヅラ? エクステ? をしている割に詰めが甘い。それに反してモブくんは……ほう。
「モブくん…モブくんかわいそうに…ちょっとパンツ見せて」
「えっ、だ、だめですよ」
三つ編みとは…よく分かってるじゃないか。これ霊幻さんの趣味かな。それはそれでちょっと嫌だな。でもよく似合っている。プリーツスカートの裾をつまむと、モブくんはそれを上から押さえて、ささやかに抵抗してきた。やだ燃える。萌える。
「3000円あげるから…」
「だめですよ、あっ」
「あっ」
私の腕は軽々と霊幻さんに持って行かれた。勢いがよかったのでちょっとモブくんのスカートがめくれた。でも見えなかった。残念。
「下らない事してないで、早く残りの準備しろ。待ち合わせもうすぐだからな」
「はい師匠」
「名前も行くか?」
「えっ霊幻さんモブくんだけでなく私にまで制服プレイを強要…!?」
「バカ、保護者役だよ。さすがに三着も用意出来なかったからな…」
霊幻さんはしっしっと私を手で追い払って、化粧を始めた。それなりにちゃんとした手順でやっている。なにその無駄な技術…てか化粧道具、用意いいな。結った短い後ろ髪がぴょこんと揺れる。
「霊幻さんポニテ好きなんですか?」
「ん? ああ、まあな」
「じゃあ私も今度してこようかな」
少しの間のあと、えっと声がしたけど私はもうモブくんの撮影で忙しかった。
「はい目線こっちー、表情かたいよーでもそれがいい! モブくんかわいいね!」
「あの、名前さん、はずかしいです…」
「ごめんごめんあと一枚だけ、ありがとう。時給以上に良いものを得た…」
「おい名前、さっきの」
「あ、霊幻さんメイクおわりました? ってまだじゃないですか」
「あ、ああ、うん」
「早くして下さいよ」
霊幻さんはなにやらブツブツ言っていたが無視した。モブくんがかわいい。ガン見していたらサッと目を逸らされた。良い。
「名前さんは行かないんですか?」
「二人が行ってる間お客さん来たらあれじゃん。こんな胡散臭いとこなんだし応対はきっちりしておいた方がね」
「おい、どこが胡散臭いって?」
「あ、終わりましたか」
化粧してもやばい。いやむしろそれが誇張されてる気がする。なのに堂々としてるんだもんなあこの人逆にすごいよ……。
「じゃあ行ってらっしゃい霊幻さん、モブくん」
「おう」
「いってきます」
外へと向かう二人のJKを見送って、ひとり事務所で片手間にレポートを書きつつテレビを見まくった。
「あれ、霊幻さん早かったですね」
思っていたよりも早く事務所に戻ってきた霊幻さんは、肌に汗を伝わせ呼吸を少し荒げながらはす向かいのソファにどかりと座った。
「ちょっと、足閉じて下さいよお嬢さん…あれ、モブくんは?」
「潜入中」
「霊幻さんは?」
「校門で警備員に捕まったから逃げてきた」
「わあ」
霊幻さんはそう言いながらブレザーをソファに脱ぎ捨てた。ついでにリボンも。それ借り物じゃないんですか…。というかやっぱり捕まったのか。でも逃げ切るとはさすが…妙に悪運強いんだよなこの人。
「モブくん大丈夫かな…」
「あいつなら平気だ」
「女子高生に襲われてないかな…」
「お前みたいなのはさすがにいねえだろ」
「嫌ですね私妄想と現実はわきまえてますよ」
「お前さっきセクハラしてただろ!」
「パンチラはセーフ」
「アウト!!」
未遂だったからいいじゃないですか別に。まったくお前は…とお小言が始まったが無視してテレビを眺めた。この時間帯はドラマの再放送が無くなってからニュースばかりでつまらない。特に超能力者絡みの事件も無いようだ。ぼんやりしているといつの間にか霊幻さんの話は終わっていた。
「あーーっつ……おい名前アイスくれ」
「そんなものありませんよ」
「バッカお前なんで切らしてんだ!」
「経費節減」
「必要経費だろ!!」
そんな全力で会話してるから暑くなるのでは。
「暑いんならもう銭湯行ってきたらどうですか?」
「面倒くせえ…久々に走ったから疲れた、動けん」
「おっさん…」
そう呟いたらわりかしショックな顔をされたので一応謝っておいた。
「すみません…でもちょっと汗くさいですよ」
「うるせえ……」
「すみませんて」
「今日は変態呼ばわりされるし最悪だな……」
「いやそれはしょうがないでしょうよ」
そう言ったら、霊幻さんは本当に落ち込んでしまった。うなだれたと思ったらソファにもたれ天を仰いだ。面倒だな。
「じゃあ買ってきますよ…ガリガリくんでいいですか」
「お前もっと稼いでんだろ、バイト掛け持ちやがって」
「さみしいですか」
「…まあ少し」
「文句言うなら時給上げてください」
「あーガリガリくん食いてえ」
「はいはい」
私はため息をついて近くのコンビニに向かった。モブくんの分は今日の仕事をねぎらって、少し高いアイスを買って上げた。彼にはいつもお世話になりっぱなしだ。
コンビニを出ると、丁度仕事が終わって事務所に帰る途中のモブくんと会った。
「お疲れ様、大丈夫? 襲われてない?」
「…? 悪霊は除霊しましたけど」
食べ歩きは行儀が悪いと思いつつ、霊幻さんは目ざといのでモブくんには先にアイスを渡しておいた。丁寧にお礼を言ってくれるモブくん。アイスも喜んでくれた。なんてできた子なんだ。やっぱり時給上げてもらおう。アイスを一緒に舐めながら、二人並んで事務所に帰った。
後日霊幻さんは私がポニテにしてくるのを密かに期待していたらしいけど(モブくんがこぼした)、私はすっかり忘れていた。モブくんの女装で頭もカメラロールもいっぱいだったのでゆるしてほしい。
160813
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