こたつとはなんと偉大な発明であるか。カルデアの空調は万全であるもののあの温さがとてつもなく恋しく、マイルームにこたつが欲しい、そう頼めば案外あっさり要望は通った。小さいものではあるが私の部屋にまず導入され、次いでサーヴァントたちも瞬く間にその魔力に屈したためフリールームにも大きめのものが用意された、のだが。
 私の部屋のこたつへ未だにやって来るサーヴァントも少なくはない。清姫とか清姫とか清姫とか。嬉しいけれどあんまりに頻度が高いと息が詰まってしまうので、最近は遠慮して頂いている。しかし彼女以外にも、お客はまたいらっしゃるのだった。

「おや、おかえりなさいマスター」

 天草はみかんをわこわこと剥きながら、にこやかに挨拶してくる。私の不在中に部屋にいるの、できればやめて欲しいのだけれど、サーヴァントのみなさまは自由である。

「ただいま…」

 もう慣れましたが。いそいそとこたつ布団に潜ろうとすると、静止の手が上がった。

「なんです」
「こちらが空いているのですが」
「いや三方空いてるよ」
「いえいえマスターにはぜひこちらに」

 さあ、と示された場所は天草の膝の上だった。

「いやいや…」
「マスターの部屋のこたつは小さいですからね、脚がぶつかってしまいます」
「そこだと脚も体もぶつかりますが」
「収まりは良いでしょう?」
「良くなくない?」
「良いです」

 強引な。らちがあかないので結局そのお膝にお邪魔した。私のお腹のあたりに軽く腕が回される。落ち着かなくてよじった背中に ちゃり、と天草のロザリオが音を立てた。

「マスターも食べるでしょう、みかん」

 お腹から手が退いたのは良かったけれど、テーブルの上にあるみかんを取ろうとして体を起こされると、必然的に天草は私に近づく。もう近づき過ぎているけれど。銀に光るイヤリングが頬をかすめた。つめたい。

「どのくらい食べられますか?」
「うーんそんなに要らないかな…さっきご飯食べたし」
「そうですか」

 白いすじを丁寧にむいた綺麗なみかんを口元に差し出される。

「えー…」
「どうぞ」
「むぐ」

 無理やりかよ!指先が唇に触れた。連日の戦闘でなにもかも怠っていたので、かさついているのが恥ずかしくて少し俯く。

「ビタミン摂りましょうね」
「…はい」

 それから黙々とみかんを食べた。自分で。天草も天草で新しくむいて口に運ぶ。
 遠くにサーヴァントたちの喧騒がかすかに聞こえる。それでも静かだ。なんだか久しぶりだ、こんな時間は。いつもまわりにはたくさんの仲間がいるのが常だから。
用意の良い天草はウエットティッシュで手を拭きまた私の腹へと手を回す。…食べたばかりなので膨れているので余計に恥ずかしい。

「なんだか」
「?」
「懐かれたもんだなあと」
「そうでしょうか」
「未だにマイルームでも抜刀してるけど」
「それはそれ。…マスターを護る為ですから」
「ほんとかなあ」
「本当ですよ」

 くすくすとなにがおかしいのか笑う天草。

「まあ貴女がそう言うのなら、そうなのでしょう」

 それはどこにかかっているのか。聞こうとしたが口から出たのは間の抜けた欠伸だった。


180320
back


斜掛