そこは劇場のような暗い場所でした。何脚もの椅子が並んでいて、椅子と向き合うように置かれているのはとても大きなスクリーン。
そのスクリーンには夜の街並みが映し出されていました。
風で草木の揺れる音、城下町の夜でも賑わう喧騒、夜空を舞う烏の鳴き声。あらゆる生活音が劇場を満たします。
その劇場にはぽつり、ぽつりと片手で数えられる程度の人影があります。しかしどの人影も誰かに隣接しようとはせず、不思議な感覚を開けて座っていました。


「あぁ、暇だ」

若い男の声が響きます。男は心底つまらなさそうな声音でそう呟くと、くぁ、と欠伸をしました。

「君も、早く解放されるといいね」

「全くその通りだ。これが革命モノでなければいい加減、飽きという劇毒に体を蝕まれて死んでいただろうよ」

若い男の言葉に返すようにこれまた青年の声が何処かから上がります。若い男は気だるそうに青年に返すと、小さく青年から笑い声が漏れました。

「それで、観劇者様方はなにをしてるんだ?ここにはお前らの望むようなモノはないはずだ、ゲームすらとっくに破綻したんだからな」

若い男は僅かに声を張りました。それは劇場全体に問い掛けるようなもので、スクリーンに向けられていた劇場の視線は一点に若い男に集められます。

「あの2人は亡き反魂卿を嘲りに来たのだろうね。かつて反魂卿に敗北していた者達だから覚えているよ」

「まさしくその通り、聡明な破顔の魔術師さん。私達姉妹はその為にこの会場へと参ったわ」

「ああ、ああ。見目麗しい奇跡の魔術師よ。貴方には直接関わりのないことでしょうによくぞご存知ね。ああ!愚かなり反魂卿!!プレイヤーがキャラクターに取り込まれるなど、愚劣極まれり反魂卿!!!!」

「ああ、お姉様。私、とっても胸がすくわ!!こんなの数百年ぶりよ。反魂卿が失態を演じたと聞いたからこちらに参ってみれば、なんとも愉快なことになっていたもの」

青年の声に二人の少女の嬉声が反響します。二人の姉妹それぞれが矢次早に興奮したような叫びを上げると、若い男は迷惑そうに眉を潜め舌打ちをしました。
青年はそれをただ口元に笑みを湛えて見ているだけで、深入りはしません。二人の姉妹は暫し楽しげに騒いでいましたが、徐々に落ち着いてきたのか反響が収まってきました。

「それで、そっちのお前はなんだ。殺気が刺さって背中が痒いんだよ」

若い男は不機嫌を隠そうともせず、最後尾に座っている大柄な男に言葉を投げます。問うまでもないその語調には、どこか竦ませるような威圧がありました。

「…お前を笑いにきたんだよ、このクソ遊戯荒らしが」

一瞬、怯えたような様子を見せましたが大柄の男は殺気を声にも滲ませて答えました。

「前にお前に遊戯を荒らされた者だよ、俺は。遊戯荒しが一つの遊戯に拘束されていると聞いて笑いにきてやったんだよ。ずっとここで縛られてろクソ野郎!!」

憎々しい、それは誰しもが感じ取れるでしょう。大柄な男は吼えるような大声で若い男を詰ります。ギンギンとした反響が痛いのか、姉妹が耳を塞いでますがおかまいなし、よほど憎らしいのでしょう。殺気が増幅していきます。
しかし若い男は意に介さず、といった様子で、それが更に大柄な男の怒りを掻き立てるのでしょう。大柄な男は追撃に及ぼうと息を吸い込みましたが、言葉が発せられることはありませんでした。

「ごちゃごちゃとうるせぇ、黙ってろ。一度無様に敗走した分際で思い上がるんじゃねぇよ」

ごとり、


光にも炎にも似た線が一文字に走ったかと思えば大柄な男の首が落ちていました。ぼとぼとと血が落ちますが、やがてそれは大柄な男の体ごとさらさらと光の粒子となり溶けていきます。
きらきらとした粒が見えなくなった頃、もう大柄な男に意識を置いている者は誰もいなくなりました。