「ねぇシャル、今度ヨークシンの街中にね、新しいカフェができたの。一緒に行かない?」
「やだよ彼氏と行ってきなよ」
「だって忙しいらしくて休み合わないし、合っても外には出たくないって言うし、ああいう所苦手だって言うんだもん」
そう言ってナマエはむすくれた顔をする。そんな奴、別れちゃえばいいのに。何度も言ったはずの言葉を飲み込んで、呆れたような笑顔を作る。
「しかたないなぁ。浮気って疑われても俺知らないからね」
「そうでもしないと嫉妬してくれないでしょ」
「でも、そんな彼氏がそんな時間にヨークシンの街中歩いてるの? 気付かれなければ意味ないと思うけど」
自分で仕事が忙しくて休みが合わないと言っていたのにそんなことにも気付かなかったのか、ナマエは苦い顔をして腕を組んで、わざとらしく顎に手を添える。馬鹿馬鹿しい茶番に付き合ってあげるのも何回目だろうか。いくら愚痴を聞いてもナマエから別れたいという単語を聞いたことはなかった。
「ナマエはさ、彼氏のどこが好きなわけ?」
「え〜、分かんないなぁ。付き合って長いし、強いて言うなら優しいところ?」
一緒に出かけてもくれないのに? そう言うのは簡単だと思った。でも、その答えに当たり障りのないような、ふーんと返事を返してナマエから視線をずらした。なんでそんなことを聞いたのだろうか。いつでも別れられる雰囲気なのにそれでも別れないのだから俺にチャンスがないことくらい分かっているはずなのに。どこか勝てると思っていたのだろうか。
「でね、そのカフェが──」
パソコン借りるね、と言ってそのカフェのWebページを開いて見ながらナマエが楽しそうにそう喋る。友達みたいな、兄妹みたいな、決して恋人ではない関係がいつも通りある。ナマエにとって一番楽なこの関係が俺には一番辛かった。ナマエの彼氏よりも絶対に傍にいるはずなのに、俺のことを見る目は昔から何も変わらなかった。
いい加減、大嫌いだと笑ってよ。そしたら諦めつくからさ。