シャル流星咲月

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 明るい日差しが照らす、少し高めのカフェのテラス席。生い茂る木々や鳥の囀り、花々の馨しい香り、そして美味しいランチ。久しぶりに会えたシャルと、ランチタイムを楽しんでいる最中ふと、気になってしまった。――シャルは一体、私のどこが好きなのだろうか。

 出会いは突然だった。信号待ちをしている際に、シャルが右側から覗き込むように私に声を掛けてきた。その手にはハンカチを持っていて、地面に落ちたのかハンカチは少し汚れていた。

「これ、あなたのじゃないですか?」

 第一声はそんなような言葉だったと思う。こうやって声を掛けられることは映画やドラマの中だけの出来事だと思っていたし、実際、私はこの時に初めてこんな風に声を掛けられた。これから先も、きっとこんな出来事は起こらないだろうと今なら思う。だけど当時の私は突然のことで気が動転していて、冷静になれ、と脳に指令を出し、深呼吸を繰り返して返事をした。

「ごめんなさい。私のではありません」

 品の良さそうな、上質そうな素材のそのハンカチは確かに私のではなかった。それに私は、ハンカチなんて柄じゃなく、いつも小さいハンドタオルを持ち歩いているから、見間違えるはずなんてない。それなのに。

「でもオレ見たよ、キミの鞄からこのハンカチが落ちるのを」

 彼――シャルは、引かなかった。少しの問答が繰り広げられると、そのままシャルは強引に私へハンカチを押し付け、あろうことかお礼まで要求してきた。

「お礼はランチでいいよ、これオレの連絡先だから」

 そう言い残してシャルは去って行った。この日のことは、交際して数ヶ月後に真相を知ることが出来た。あの出来事は、シャルが練りに練った渾身のナンパというやつだったらしい。良いのか悪いのか、そのシャルのナンパのお陰でこうして今も二人で幸せを噛み締めている。二度目のランチの時に言われた告白の言葉も、今でも覚えている。

 アイスティーのグラスに挿さるストローを咥えながら、シャルを見つめてみる。大きな瞳に綺麗な翡翠色の瞳、あどけなさの残る端正な顔に、出所は分からないけれどいつもお金を持っている経済力、男らしいのに可愛らしさもあって、博識で紳士的な振る舞い。非の打ちどころなんて全くないシャルが、どうしてこんな私なんかの隣を歩いてくれるんだろう。どうして今も私を好いてくれているんだろう。と、時折、そんな不安に胸が襲われる。

 手に持ったサンドウィッチを口に運ぶ最中、私の視線に気付いたシャルと目が合った。サンドウィッチを齧ると不敵な笑みを浮かべながらテーブルに両肘をつき、少し前のめりになる。

「食べたかった? サンドウィッチ」

 そんなに物欲しそうな目に見えていたのだろうか、とおかしくなって笑ってしまった。確かに私の頼んだフレンチトーストよりもサンドウィッチの方が美味しそうだな、なんて思ったけど、結局のところ私にとってはシャルと同じ空間で食事をすると、どんな物でも何でもご馳走へと変貌するのだ。このランチタイム、そして人生への最高のスパイス、トッピングとしてシャルが存在している。シャルの居ない食事は味気なくて、何も楽しくないただの食事だけど、そこにシャルが居てくれるだけで私の視界はふわっと華やぐんだ。

「違うよ。ねぇ、シャルは……私の嫌いなところ、ある?」

 アイスティーを飲みながら、そして少し躊躇しながら、ついに問いかけてしまった。付き合ってもう少しで一年が経つのに、私にはどうしても、シャルがどうして私を選んでくれたのか、どうして私なのかが分からなかった。私のその問いにシャルは間髪入れずに、ない。と即答した。

「ちゃ、ちゃんと答えてよ! 私……優柔不断だし、怒りっぽいし、よく寝坊して遅刻しちゃうし、あんまり難しい事も分からないし……私じゃシャルに釣り合わないよ」
「オレはそんなナマエを含めて全部好きだよ」

 さらに身を乗りあげ、アイスティーを持つ私の手にそっと触れ、少し笑みを浮かべながら目を見てはっきり告げられた。カランと氷の打つかる音が脳に響いた。

「っ……そういうところ全部、大嫌いって笑ってよ。じゃないと私、シャルから離れられないよ」

これ以上シャルと一緒に居ると、もうシャルなしじゃいれない女になってしまうと気付いてしまった。だから早く、一日でも早く。いっそシャルが私を見限ってくれれば楽になるのに。そう思ったと同時に言葉にしていた。その言葉を聞いたシャルは軽い笑い声を出していた。

「そうだね。……強いて言うなら、オレと離れることとか別れることとか、ありえない話を考えてるナマエのことは大嫌いだね」

目を細めて笑うシャルの言葉に呆気に取られていると、私のフレンチトーストをシャルがフォークで切り分け、一塊りに突き刺すと私の口へ近づけてくれる。

「あの日の言葉通りだよ、ナマエ。オレはナマエのことが誰よりも、何よりも大切で、大好きだ。それはこの先何があっても揺るがないよ」

 そう言って、フレンチトーストの刺さったフォークを私の口へ押し込んだ。あぁ、もう。そんな笑顔で言わないで。そんな風に笑われると、永遠を信じてしまうじゃない。せめて死が私たちを分かつまで、その日までは隣で笑っててね。そしてもし、どっちかが先に死んじゃったら、先に死んだ裏切り者なんて大嫌い! って笑おうね。口に含んだフレンチトーストを咀嚼しながらそんな風に思った。少し上を向くと、こんな昼間に月が顔をだしていて、なんだか神秘めいたものを感じてしまった。

 もしシャルが死んだら、大嫌い! って笑ってやるんだ。もし私が死んだらシャルは、大好きだった、と泣くんだろうな。なんてね。残り少しになったアイスティーを飲み干してシャルの顔を見ると、なんだか清々しい気持ちになっていた。

大嫌いだと笑ってよ