チームB1周年記念特設ページ

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 事務室にある机に向かっていたリコの背後から、不意に影が落ちる。ハッとしてリコが振り向くと、そこには同じく驚いた顔をしたヒースが立っていた。

「う、わ、……なんだヒースか。驚かせないでよ」
「ごめん。集中してたみたいだから」

 それで、とヒースは視線でリコの手元を示す。そこには、人型のデッサンと様々な素材の布が散乱していた。
 目頭を抑え、大きく息を吐く。人がすぐ近くに来ていたことに気付かない程に集中していたらしい。作業中は気にならなかったが、自覚してしまうと一気に目元や首周りの疲れがどっと襲ってきた。
 リコは作業を一旦中止して、椅子に思い切り背中をもたれさせる。ぎしり、と部品同士が軋む音がした。そしてリラックスした姿勢のまま、ヒースに答えてやる。

「次、オレたちの公演正月でしょ? 特別なものだから衣装も新しく作るんだって」

 その衣装のデザインの相談、とリコは散乱した書類の一つを指さす。新参チームではあるが、季節限定の公演、しかも正月という記念の公演をチームBが任されたのであった。

「リコがやってるの?」
「そうだけど。まだ完成してないんだからあんまり見ないでよ」
「ごめん。でもあれ、ミズキは?」
「あいつに衣装のデザインが分かると思ってんの?」

 特別に衣装を拵えることになった時点で、業者とのやり取りは全てリコが取り持っていた。先方から貰ったいくつかのデザイン案を元に、ステージ上での動きやすさや楽曲のコンセプトに合わせて具体的なものへと固めていくのだが、如何せんチームのトップであるミズキは「派手に」「なんか格好良く」「イケてる感じ」としか言わないのである。そもそも衣装にあまり関心がなく、彼曰く「ヒラヒラとかキラキラがなきゃなんでもいい」だそうだ。何を見せても良い反応をせず、業者との仲介役を受け持つ運営が困り果てているところに声がかかったのがリコであった。

「まあ、ミズキだしね」

 その光景が目に浮かぶ、とヒースは呆れつつも小さく笑った。
 あまり見るな、とリコが言ったのにも関わらず、ヒースは机の上に腕を伸ばしてサンプルの布の束を手に取る。真剣そうな顔をして1枚1枚を捲っていたが、分からないや、と言ってのけた。

「リコに任せていたらもう安心だね」
「決まってんじゃん。お前らのクソダサセンスと一緒にしないでよね」
「それもそうだ」

 そしてヒースはリコから離れると、事務室に置いてあるソファに寝転がる。てっきり出ていくものだと思ってたリコは驚いて間の抜けた声を出した。

「は? 出て行かないの」

 ソファの向こうで、起き上がりもせずにヒースは応える。

「うん。時間余ってるから」
「人いない方が集中できるんだけど」
「寝てるからいいでしょ」
「やだよ。ちょっと、ねえヒース……聞いてないだろ」

 ヒースは全く応える気配がなく、代わりに衣擦れの音だけが聞こえてきた。
 仕方なく、リコは再び作業に戻る。人がいるのは嫌だと言ったけれど、ヒースであれば騒がしくしないだろうし、そもそも寝ているのだからいないも同然であった。
 時折スマートフォンで検索をしながらも、デザイン案と布サンプルを合わせて頭の中で衣装をイメージする。完成図はほとんど決まってきているのだが、どうにもパッとしない。派手すぎるのは好まないが、チームカラー的に多少素っ頓狂であれど目を引くものがいい。そのためにまず素材から変えてみてはいるものの、これとった解決策は見当たらなかった。これは、そもそものデザインを変更するべきだろうか。いやしかし、今からの大幅なデザイン変更というのも避けたい。
 リコはふと思い立って、机の向こうに鎮座するソファへ目を向ける。こちら側から見えるのは鳥の巣のような頭のみ。大人しくはしているものの、宣言通り眠りについているかは確認できない。
 そっと、リコは口を開く。

「ねえ、インパクト強くするにはどうしたらいいと思う?」

 しばらくの沈黙の後、小さな声が落とされた。
  
「……ぬいぐるみでもつけとけば。金剛のうさぎより大きいやつ」

 嫌でも目立てるよ、との声にリコは鼻で笑って返した。