※教祖の夏油さん

友達の付き添いでついていった宗教団体のボスが学生時代の先輩だった。

「あれ?苗字、久しぶりだね」

めちゃくちゃフランクに話しかけてくるもんだから、なんだか拍子抜けしてしまう。五条さんなんかわりとしばらくピリついていたというのに。
先輩なんて軽い表し方をしたけど、この人の実力は私なんかとは全然違って圧倒的だった。だから、友達に憑いている、私では祓えない呪霊も簡単に握り潰せるわけで。
あっという間に不調がなくなったらしい彼女は夏油さんに泣きながらお礼を言っている。それを夏油さんはなんともいえない表情をしながら見ていた。私は少し居心地が悪かった。
友達と一緒にさっさと帰ろうと思っていたのに、「君はちょっと残って」なんて恐ろしい宣言をされる。

「久しぶりに会えたんだからさ、少し話でもしようよ」
「……私と夏油さんに積もる話なんてありましたっけ?」
「はは、酷いなぁ。まあ確かに、私たちにそんなものはないけどね」

さらっと酷いのはどっちなのか。

「……あれからどうだい?見た感じ、呪術師はしてないみたいだけど」
「してませんよ。わたしも、七海も」
「そう。七海がやってないのは意外だな」
「そうですか?」
「そうさ。……いや、やっぱりそうでもないか。うん」

私は夏油さんのことをあまり知らない。一つ上の学年にいた人で、めちゃくちゃな実力を持っていて、ある日突然いなくなって、……灰原がすごく慕ってた人だ。
いま、彼が何を持って納得したのかもわからないが、その言葉の隅っこに高専時代の影が見えたのは確かである。

「ひとつだけ、聞いてもいいですか」
「なんだい?」
「もし、もしですよ。……灰原が生きてたら、夏油さんはずっと高専に残っていましたか?」

こんな質問、何にもならないってわかっている。今夏油さんがよくわからない教祖をやってる現実も、大事な同級生が10年近くも前に亡くなった現実も、変わることがないってわかってる。口に出して、バカなこと聞いてしまったなと実感した。

「どうだろう。……もしかしたら、もう少し楽に生きていたかもしれないけど……」
「……」
「でも、やっぱりこうなってただろうね」

あの日、七海が灰原と高専に帰ってきた日。ひたすら暗い顔をして灰原を抱き抱えていた七海に、私はなんて声をかけたっけ。真っ白い布を被せられた彼の姿を、夏油さんも見たはずだ。それから何日かして、夏油さんは高専からいなくなった。詳しい経緯も理由も、私は何も知らない。

「私の理想郷の中に、確かに君の居場所もあるよ。それは約束する。同じ学舎で過ごした仲間でもある」
「……なんか、気持ち悪いなぁ」
「酷いじゃないか、先輩に向かってその言い方は」
「すみません、あまりに唐突で、つい」
「私も今から……あまりに滑稽なもしもの話をするけれど」

寝転がっている夏油さんはそのまま呟くように言葉を繋げた。別に、私に話しているわけでもなく、ただ本当に口をついただけのようでもあった。その瞳は空を見つめていて、少し細く歪められている。

「もし灰原が生きていたら……あいつは私のことを肯定してくれるだろうか」