互い違い



半ばやけくそで一を四回押しても、スマホはブー、と震えるだけでロック画面のまま動かない。男子がパスワードにするのって安直な数字か自分の誕生日かじゃないの、と今度はゼロを四回押してみるがそれも違う。そもそもmeiが簡単にわかるパスワードなら、瀬名のほうも簡単にスマホを渡してはいなかった。うーんと唸りながらもう一度瀬名の誕生日を打ち込むが否定される。いち、いち、ぜろ、に。ちなみにmeiのスマホはその数字で開いたりする。言い換えれば、好きな人の誕生日をパスワードにしている。meiは願掛けというものを全く信じてはいなかったが、パスワードを自分のにするのは気が引けたのでそれなら瀬名のものがわかりやすいと設定した。あくまで好きな人というのは後から付いたものである。そういうわけで、自分の誕生日が正解の四桁だという可能性を考えた。……これで開いてしまったら、まあそんなわけないけど、と僅かな期待をもってダメ元で打ち込む。スマホは無情にもブーと震えるだけで、残念ながら開かなかった。
それを後ろから見ていた瀬名は「誰にでもわかるような数字じゃだめでしょ」とスマホを取り上げる。まってわかった、答えは遊木くんの誕生日じゃないの、と気付いたがもう確かめられないので仕方ない。仮に正解していたとしても何かあるわけではないので、その情報はすぐに記憶の外に追いやられた。それよりmeiが気になったのは、瀬名のどこか含みのある言葉だった。meiの誕生日を『誰にでもわかるような数字』だと言ったこと。
「別にパスワードが私の誕生日でも誰もわからないんじゃない?」
そういえば遊木くんの誕生日こそ『誰にでもわかるような数字』に当てはまるような気もする。瀬名イコール遊木くん、みたいに瀬名から遊木くんは安易に連想できるから(遊木くんから瀬名を連想することは決してないが)。つまりそれはパスワードは遊木くんのではないという意味だ。……だめだ、全然わからない。どうしても正解を知りたいというわけではなかったが、見当もつかないなら気になるというものである。惜しくもこの話は迷宮入りになった。
それはさておき、meiはその『誰にでもわかるような数字』に自分の誕生日が含まれているとは微塵も思わなかった。だってその言い方だとつまり、さっきの理論で言うなら、瀬名から私を連想できるってことでしょ。それは自分でも違うと思った。付き合っているならともかく、meiと瀬名の関係といえば片想いとその相手なのだから。あの遊木くんに瀬名のスマホを渡したところで、meiの誕生日を打つところを(誕生日を知っているかどうかは別として)想像すらできなかったのである。当然のように瀬名が言った『誰にでもわかるような数字』を純粋に疑問に思った。じゃあ皆は、瀬名と聞いたら私を思い浮かべるの。おおよそそんなことを聞いたmeiに、瀬名はまた当然のように肯定したのだった。
「わかるよ。アンタ以外にはバレてるから」
つまるところmeiと瀬名の関係といえば、互いに片想いをしていて互いにその相手だということだった。残念なことに、meiはその言葉の意味を汲み取ることはできなかったのだが。