異界と現世が交わるこのヘルサレムズ・ロットにも大分と慣れた。異界人の姿にも、何が起こるかわからないこの街にも、いつも死と隣り合わせの恐怖にも……。

「って慣れてたまるかー!!」

何だかよくわからない爆発に巻き込まれて爆風で体が吹っ飛んだ。全身が痛い。倒れ込んだまま大きく溜め息を吐いた。大きなケガもなく動けそうなことを喜ぶべきか。音速猿のソニックが上手く逃げていて無傷なことを喜ぶべきか。心配そうに覗き込むソニックと目が合うと、何だか乾いた笑いが零れてきた。

「君、大丈夫?」

ソニックの後ろから聞き慣れない女性の声が聞こえた。
顔を上げると年上の綺麗な女性が倒れ込んでいる俺に手を差し伸べてくれていた。シックで何処か気品のある綺麗な服に身を包んでいる彼女の、優しく微笑む姿に何処か不思議な雰囲気を感じた。
急なことにあわあわ意味のわからない声を上げながら何とか大丈夫です、と言ってその場に座り直した。それでも差し伸べてくれている彼女の手を取ろうと伸ばした瞬間、それは見えた。

神々の義眼を通して見えた彼女の纏う独特のオーラ……、いやそれよりも彼女の体に絡む鎖のようなものに背筋が凍った。首のあたりだろうか、そこを中心に絡む鎖からは闇のような黒いものが漂っていた。見たところ彼女は普通の人間で、これはきっと彼女自身がつけたものではなくて、第3者による何らかの能力だとほぼ確信していた。このどす黒いものは彼女にこの鎖をつけた者のオーラなのかもしれない。ブラッドブリードとは違うけど、同じくらい恐怖を感じるオーラだ。その禍々しさに息苦しくなる。

思わず伸ばした手を止めてしまったが、彼女の方から掴まれ手を引かれたので慌てて立ち上がった。落としてたわよ、と手渡されたのは黄色いデジカメで、僕が愛用している物だった。きっと転倒した拍子に落としたのを彼女が拾ってくれたんだろう。声を掛けてくれたのもこれを渡す為で、用が終わった彼女は去ろうとしていたけど、気が付いたら俺は声を掛けていた。

「あ、あのっ!」

だって放っておけるわけないじゃないか!
彼女の身に何が起きているのかはわからない。でもきっとそれは望まないことで、それによって苦しまされているんじゃないと思うと……。
俺はこの神々の義眼を手に入れた時のことを思い出していた。
あんな理不尽で悲しい思いはもう誰もしちゃいけないんだ。

「な、何か首に違和感を覚えたりしませんか?」
「え?」

放っておけない、と決意してもどうやって声を掛けたら良いのかわからなかった。いきなり見えるんです、それを取りませんか、なんて何の宗教の勧誘かと思われるか。そもそも俺に何が出来るんだろうか、とも思ったけどやっぱり何もしないわけにはいかない。

「首が重いとか痛みを感じるとか、もしかしたら首じゃないかも。肩が痛いとか痺れるとか喉が苦しいとか声が出にくいとか言えない、とか……。」

声はだんだん小さくなっていった。こんなんじゃただの怪しい人だ。彼女も目を見開いて驚いてる。

「……どうして、」
「いやあの、困ってることがあるなら何か力になれないかと……。」

しどろもどろになりながらも気持ちを伝えると、彼女は微笑んだ。

「このままで良いの。」

それは俺が何を言いたいのか伝わっていて、やはり何かが起こっているのも肯定していて、それでも現状維持を求める彼女の真意がわからなかった。だってそれはとても禍々しくてまるで、……呪いのようだった。
でも彼女の笑みは無理をしているどころか、幸せそうにさえ見える。

「……。」

このままで良いはずはない。でも、彼女がそれで良いと言うのなら、初対面の俺が何を言っても仕方ないんだろう。

「私はa。貴方は?」
「レオです。レオナルド・ウォッチ。」
「ありがとう、レオくん。私この先のアルヴェアーレっていうお店によく居るの。良かったら遊びに来てね。」

俺がまだ何か言いたいのを感じ取られてしまったんだろう。彼女はそう言うと今度こそ去っていった。

この彼女との出会いが今まで知らなかったヘルサレムズ・ロットの、いやかつて紐育と呼ばれた街の裏側を知ることになるのだった。




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