廃倉庫に男女が一人ずつ。男はレンチを片手に物を壊し、女もまたナイフ片手に壊していた。
車を完全に解体し切り一息ついた男は女に問うた。

「自分を壊して楽しいか?」

振り向いた女は男に負けないくらいに淀んだ瞳をしていた。
男は物を解体しては喜んでいたが、女は自分を切り付けては喜んでいた。
女は自傷癖のある人物だった。左手首から二の腕まで、自分で付けたと思われる傷という傷で埋まっていた。

「もし楽しいと言ったら?」

どんな自傷癖のある人でも、それを楽しいと言う人はそう居ないだろう。だがこの女は楽しそうに笑いながら自分を傷付けていた。

「そうだとしたら、悲しい話だ。aが楽しいと思う事が俺には理解出来ない。しかもそれは愛しいaが傷付く事だ。それはとても悲しい話ではないのか……!?」
「大丈夫、私もグラハムの解体趣味は理解出来ないから。」

そう言って女はいつもの様に左腕にナイフを走らせた。じんわりと血が滲み、それを見た女は何処か恍惚とした表情を浮かべていた。

「ねぇ、グラハム。安心しない?傷をつけるとこんな私でも赤い血が流れてて、生きてるんだって安心出来るの。」
「……もし肯定されたらと、怖くて聞けない事がある。だが愛しいaの事を知りたいと思うのも事実で、俺はいつも葛藤しては聞くのを後回しにしてしまっていた。悲しい話になるのか、嬉しい話になるのか、それはaにしかわからない。だが……!」
「長い話はいいから、聞きたい事って何?」
「……死にたいと、思っているのか……?」

もし肯定されたら。
男は今にも悲しい話をしようとしてしまうのを、ぐっと堪えて女の答えを待った。

「ひひひ。そんなんじゃないよ。生きてるのを実感したいから切るんだよ。」

女は笑って言ったが、何処か影のある印象は変わらなかった。

「そうか……、良かった……。」

安心した男はそのまま嬉しい話を紡ごうとしたが、女の言葉がそれを遮った。

「だからもし死にたくなったら、その時はグラハムが私を壊してね。」

それはとても美しい笑みを浮かべて言った。









20090620
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