俺はa・bさんが苦手だ。
気が付いたらこの廃倉庫によく入り浸るようになっていた彼女。グラハムさんは何を考えているのだろう。彼女も仲間に入れるつもりなんだろうか。
「シャフトさん、シャフトさん!」
この廃倉庫には似合わない優しい純粋な笑みを浮かべながら彼女は俺の方に駆けてきた。
ああ、どうしようか。
彼女の顔を見ていられなくて思わず視線を横に反らした。そんな俺に気付いているのかいないのか、彼女は変わらず微笑みながら話し続けた。
「マドレーヌ焼いてみたんです。食べてみて下さい!」
差し出された手の中には綺麗な焼き色のマドレーヌ。
「ありがとう、ございます…。」
受け取った後もにこにこ見て来るので、今ここで食べて欲しいのだろう。期待されては仕方ないので頂く事にした。一口食べると程よい甘さが広がった。
「……美味しいです。」
これはお世辞なんかじゃなく、お店で売っている物のように美味しかった。
「良かった!あ、グラハムさんには内緒ですよ?悲しい話が始まったら大変ですからね。」
マドレーヌは皆の分焼いてきたというわけではなさそうだ。それがどういう意味なのか、以前から気付いていたけれど、俺はそれの対処に困っていた。
何故俺なんだろうか。特別優しくしたわけでもない。逆に冷たくしたわけでもなかったが。
グラハムさんの方が彼女によくわからない愛の言葉を並べているのに。何処まで本気なのかもよくわからないが。
「またお菓子作ったら食べてくれますか?」
俺はa・bさんが怖い。
「……、はい。」
どんどん俺の心の中に入ってくるから。
彼女は本当の俺を知ったら怖がるのだろうか。化け物を見るような目で俺から逃げて行くだろうか。気が付けば彼女に嫌われるのが怖いと思ってしまっている自分がいた。
嫌われたくない。
だから彼女の近くにいたくない。大切な人になったりしたらその後が怖い。でも彼女のそばにいたい。俺はいつもその矛盾に目をつぶってしまう。
ああどうか苦手な彼女が明日も来てくれますよう……。
この気持ちに目を閉じる
20090316
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