「私、今度結婚するの。」

目の前でにこにこと笑いながら言ったのは、私の恋人……のはずだ。聞き間違いかもしれない、勘違いかもしれないと思いつつも、ぐらりと揺れた足元がそれを否定していた。

「……誰と、ですか……?」

やっとそれだけ言葉にすると、それは情けない事に少し震えていた。

「さぁ?会った事もない人。政略結婚ってやつ?」

彼女はミリオネア・ロウに住むお嬢様だ。でも父親と合わず、度々家を飛び出しては私の家に来ていた。裕福な家庭のお嬢様としては強気で行動的で、……少し変わっているのかもしれない。私との出会いも、家出した時に余所のマフィアに絡まれているのを助けたのが切っ掛けだ。そういう所も可愛くて危なっかしくて守ってあげたいと思うんですけど……。

しかし、政略結婚とは……そういうのが嫌いで父親と仲が悪かったのではないのだろうか。

疑問が顔に出ていたらしく、困ったように笑った彼女は……否、泣きそうになったんだろう。

「結婚相手ね、お医者様なんだって。」

ああ、そういう事ですか。

彼女の言葉で全てを理解した。
彼女は父親の事は嫌いだったけれど、母親の事をとても愛していた。嫌いな実家と完全に縁を切れないのもその為だ。
……ただ、彼女の母親は重い病に掛かっていた。
医者と結婚するのは……母親を助ける為なのだろう。

「ごめんね、ごめんねラック。ごめんなさい。」

ついに下を向いてしまった彼女はきっと泣いているのだろう。

「ごめんね、ラック。愛してたよっ……。」

もし、このまま貴方を掻っ攫ってしまえたら、どんなに幸せだろう。でも貴方は泣くのだろうか。母親を助けれる可能性があるのは私ではなく、医者のその男なのだ。それを承知の上で彼女は選んだのだ。
自分の無力さに腹がたつ。不死者であっても何ら変わりなどない。その力をわけれるわけでもなく、普通の人間と同じなのだ。

私はもう二度と発する事がないであろうその言葉を最後にと、抱きしめて言った。

「愛してます、a。」









20090407
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