船内の物陰から覗き込んで、行く先に誰も居ない事を確認しながら恐る恐る足を進めた。
見付かったらダメだ、何をされるかわからない。ああでも誰も居ないより誰か居てくれた方が良かったのかもしれない。誰かと一緒に居れば、彼も酷い事はしないだろう。彼さえ、フェルメートにさえ会わなければ……!

「a。」
「っ……!」

肩に手を置かれ、声にならない悲鳴を上げた。
こういう時は彼が玩具を見付けたかのように微笑んでいるのだ。実際、私は玩具としか思われていないのだろう。
手を振り払うように振り返れば、そこに立っていたのは

「な、ナイル……。」

彼でなくて安心したけれど、心臓がまだうるさく鳴っている。顔色の悪い私に気が付いたのかナイルは問うて来た。

「どうかしたのか?」
「な、何でもないよ……。」

冷や汗を拭いながら、ナイルのそばに居れば大丈夫だと自分に言い聞かせた。大丈夫、大丈夫。大……

「a、やっと見付けた。」

後ろから掛けられた声に振り返れば、フェルメートが立っていた。いつの間にか彼に掴まれていた腕が、氷に触れたかのように冷たくなって行ったような気がした。

「さぁ、部屋に戻りましょう?チェスも待ってますよ。」

嘘だ。嫌。嫌、怖い恐いこわいコワイ……!

ナイルに助けを求めて見上げたが、何かを言う前にフェルメートに震えた手を引っ張られてしまった。それでも必死にナイルを見つめたが、フェルメートが怖くて何も言えない私の視線の意味にナイルが気付くはずがない。それもそのはずで、だってフェルメートの本性に誰も気付いていない。
皆フェルメートに騙されているんだ。

私は何も出来ないまま部屋に連れられてしまった。何処に行ったのかチェスも居らず、フェルメートと二人きりになってしまった。

「a。」

名前を呼ばれて全身が震えた。

「これ、何だ?」
「ぁ……。」

彼が取り出したのは小瓶。何故フェルメートが持っているのかわからなかったが、それは私の物で、中に入っているのは……。

「aは不老不死になりたくはないのですか?」
「私はっ……。」

悪魔から出された不老不死の酒を飲まなかったのは……怖くて仕方ないのだ。死というフェルメートからの解放がなくなるのが。それでも捨てられなかったのは、私も錬金術師の端くれで不老不死に興味があるという事なんだろう。

フェルメートは無言で瓶の蓋を開けると、中の酒を飲んだ。
彼はもう不老不死の酒を飲んでいるはずで、更に飲んでも意味がないのにと驚愕していると、腕を引っ張られフェルメートの顔が近付いて来た。

「んっ……!」

塞がれてしまった唇の隙間から流れ込んで来たのは葡萄酒のようなもので。それは確実に彼が飲んだと思っていた不老不死の酒だった。

「……っ、ケホッ……!」

唇が離れた頃には苦しさのあまり酒を飲んでしまった後で、フェルメートの笑った顔が目に入った。フェルメートは私の唇から零れた酒に舌を這わせた後、耳元で囁いた。

「僕から逃げようとしても無駄だからね。」

目の前が真っ暗になった。




もう貴ない




20090731
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