勇気を出して聞いたアドレス


「メアド教えてください!」
「それ私じゃなくて本人に言いなよ」


頭を下げてそう言うと、友達の友達は吐き捨てるように突き放す。瞬間、力無く唸る名前に友達は吹き出した。


「大丈夫だって!柳くん優しいよ」
「それは友達が同じ委員会だからだよぉ…。私が急に聞いたら、何故親しい訳でもない名字に教えなくてはならないんだ。とか、名字が俺に好意を寄せている確率、83パーセント。とか言われるんだぁ!」
「なんじゃそりゃ」


そもそもお前の中の柳くんのイメージはそんななのか、とか、数字が若干リアルだな、とか突っ込み所は多いが、寸でのところで飲み込み、代わりに友達は大きく息を吐いた。そんな様子に気付かず名前は床に座り込んで項垂れている。
名字名前はクラスメートの柳蓮二に好意を寄せている。本人曰わく「好きとか嫌いではなく、仲良くなりたい」らしいのだが、つまりはキッカケが欲しいという事である。柳と同じ委員会でメアドを知っているだけで巻き込まれた友達は、先程からこの調子である。


「というか、私から聞いたって急にメール送る方が無くない?」
「うっ!」
「知らない内に自分のメアド知られてたら気持ち悪いし嫌だよ、私は」
「う、うぅぅ」


だから頑張れ、と半ば投げやりな言葉にぐうの音も出ず、とりあえず廊下の壁を殴ってみる。異性に聞くと言うだけでも高い壁と感じている名前にとって、気になる異性のメアドを聞くならば、柳の部活仲間で友人の真田弦一郎に喧嘩売る方がマシである。


「あ、嘘。真田くんに喧嘩売るのはやっぱ怖い」
「弦一郎はああ見えて優しいぞ?」
「いや、そうかもしれないんだけど、風紀委員の時怖いし、柳くんが優しいからなんか怖さが際立つというか」
「ふむ、それは俺は喜ぶべきなのだろうか」
「うん、いいと思………やっ、なぎくっ…!」


友達が先程までいた場所に、名前の悩みの種でもある柳が首を傾げて立っていた。声にならない声で尋ねようとすると、友達から名前が自分に話があるらしいからと後を頼まれた、と先に返される。
友達に感謝すべきなのか恨むべきなのか、呆然としていると、柳が小さく笑った。


「それで、話とはなんだ?」


女は根性。
そう誰かが名前の頭の中で言っている。名前の返答を待つ柳から目を逸らさずに拳を握り締め、口を開く。


「柳くん、」
「あぁ」
「め、めめめ、メアド、教えてください!」
「構わないが」
「…………嘘!?」


嘘ではない、と淡々と告げる柳にぱぁっと名前の表情が明るくなる。
じゃあ、とケータイを取り出すと、柳も同じ様にケータイを取り出す。ケータイのディスプレイの「柳蓮二」の文字に自然と顔が綻ぶ。


「じゃあ、今日メールしてもいい…?」
「あぁ、構わない」
「えっと、よろし、く?」
「……あぁ、宜しく名字」


微笑む柳に、ガッツポーズしたい気持ちを抑えて名前は何度も頷いた。




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メアドを聞くのも一苦労。