言葉を交わせるだけでも幸せで


窓際の一番後ろの席。

(今日は、話し掛けるんだ…!)

の、隣の席で名字は小さく気合いを入れる。
窓際の一番後ろの席に座る人物は、名字が密かに想いを寄せる幸村精市。隣の席になって早2ヶ月、未だ大した会話は、無い。
会話の内容など何も考えてはいないが、今はまだ朝のHR前。帰りまでには話題があるだろう、と呑気な事を考える。
息を吐いてもう一度気合いを入れると、睨むように隣の席を見る。席の主はまだ来ていない。よし、と何故か嬉しそうに頷くと不意に肩を叩かれる。


「何ー、」
「名字さん、」


嬉々として振り返った先には隣の席の幸村精市くん。一瞬で思考も、動きも止まる。


「ゆっ!ゆきっ、ゆゆゆき、らくんっ、おはっ…!」
「うん、お早う」


パニックで言葉になってない名字に対して、笑顔で対応する。幸村の笑顔で、更に頬に熱が集まる。言葉に詰まり、顔を逸らす様に俯くと、ふっと息を漏らす音が聞こえた。
怒らせてしまっただろうか。それとも呆れられた?


「俺、そんなに怖いかな?」
「そんな事ないっ!」


がたり、と音を立てて立ち上がると、教室が静まり返る。驚いた顔の幸村を見て我に返り、先程とは打って変わって小さな声でそんな事ないよ、と伝えながら席に座った。


「そっか。…なら良かった」


ふわりと、いつもの笑顔とは違う表情で微笑む幸村に、再び顔が熱くなる。

(会話、出来た…!笑ってくれたぁぁ…!!)

自分の席に着く幸村をちらりと見てから、名字は正面に向き直り机の下でガッツポーズをしたのだった。




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話せただけで幸せなのです。