卒業後から始まる新たな、


3月に入り、ようやく気温も上がり過ごしやすい季節になってきた。
が、しかし、と空を仰ぐ。晴れやかな空は洗濯日和だが花粉も酷そうだと額に滲む汗を拭う。そう、汗が滲む。


「22度とか馬鹿じゃないの」


ついこの間まで10度いくかいかないか、という話をしていたのにどういう事だと眉間に皺を寄せる。冬物のジャケットを着てきたのは間違いだったと、再び歩き出しながらジャケットを脱ぐ。こんなもの、着ていられない。
すると、バシッと言う音と共に、痛っ、と少し大袈裟な(それでも小さいが)声が聞こえた。


「……うん?」
「…………」


名字が振り返ると、恐らく彼女のジャケットの袖が顔面に当たったのだろう青年が、中腰の体制でいた。
なにゆえ中腰。そうツッコむべきかと悩む名字に、先程の体制で固まったままの青年。数秒そのままだったが、不意に青年が更に屈むように動き始める。スカートの中が見える、と咄嗟に一歩後ろに下がるが、青年は名字を気にせずに何かを拾い上げる。


「あ、」
「定期。無くしたら大変ったい」


彼の手にあるそれを見て思わず声を漏らすと、体制を立て直した青年が笑った。そこでやっと相手が見知った人物だと知る。


「なんだ、千歳くんか」
「なんだとはひどかねー」
「いやいや、てっきりスカートの中を覗こうとしてる輩かと」


真面目な顔で言ってのける名字に、千歳はどげんしたらそうなるとー、とケラケラ笑う。
千歳千里は元クラスメートで隣の席だった人物である。しかし、互いに会話を好む方ではなく、それ故に必然的に必要最低限以上の会話する事が無いので特に仲が良いわけでもなく、といった関係だ。しかも彼は中学三年の時に此方に転校してきている。尚更この様に話すのは初めてではないだろうか。しかも、卒業してからとはまた笑える話である。


「やっぱり名字は面白かねー」
「え、やっぱりって?」
「覚えとらんと?去年、転校してきたばっかの時、定期無くして学校行くの止めよう思っとう俺に、サボるつもりのとこ見つけてごめん、って定期渡してくれたっち」
「………あ」


そういえば、と思い出す。まだ千歳がクラスメートだと知る前の時の話だ。思えば、あれも丁度今頃じゃなかっただろうか。そんな事を考えながらジャケットを抱え直して視線を上げると、千歳がじっと此方を見ていた。真っ直ぐな視線に一瞬たじろぎ、首を小さく傾げる。


「ずっと話ばしたかったと、一年越しに出来とうよー」


へらりと笑って首を傾ける動作は幼い子のようで、思わず目を丸くする。

(それは、自惚れてしまうんだが、自覚はしてるのか千歳千里…!)

心の中で目の前の人物に文句を言いつつ、徐々に赤くなっていく顔を背けて小さな声で、そっか、と答えるとケラケラと無邪気な笑い声が聞こえてきた。




- - - - - - - - -

「名字はむぞらしかー」
(むぞ、なんだって?)
「……可愛い、ば意味ったい」
「…っ、……!!」
「ははっ」