そんな笑顔いらない


「白石くん、って好きな人いるんかなぁ?」


恥ずかしそうに俯いて言う少女を呆気にとられて見つめる。
あぁ、この子もなんや。
そう心の中で謙也は溜め息を吐いた。話してみたらちょっと仲良くなって、あぁええなぁ、なんて思い始めると白石くんが好きと言うのだ。流石に今年入って3度目にもなると予想もつくし、慣れっこにもなる。
どうも白石に惹かれる女子に惹かれる傾向があるらしい。まぁ、予想はついていたのだが。


「堪忍なー、俺そうゆうんよくわからんねん」


せやから、自分で聞いてみてや。
そう貼り付けた笑顔で言うと、酷く戸惑った表情の後にせやなごめん、と去って行ってしまった。
なんて酷なことを言っているんだろうと分かってはいるが、彼だって傷ついている。このくらいはしてもいいだろう。
彼女の後ろ姿が見えなくなったところで、ようやく貼り付けた笑顔を剥がして深く溜め息を吐いた。


(まーた白石がええのか)
「大変だね、忍足くん」
「大変っちゅーか凹むわ」


はたと返事をしてから気付く。果たして自分の心の声に応えたのは誰だろうか。
声のした方へ振り返ると木の陰からクラスメートの名字の姿。目が合うと彼女は申し訳無さそうな表情で、聞いちゃった、と漏らす。


「……えーと、どの辺から…?」
「白石くんって、辺りから?」
「ほぼ最初からやん」


情けなさに肩を落とすと、名字は控えめにごめん、と謝った。
思えば名字が昼休みに何処にいるかなど興味も無かったが、まさか寄りによって此処にいたとは。今日はとことんツイていないらしい。手にしていた本に視線を落とす名字の横顔を見て、再び溜め息を吐いた。
すると、でも、と名字が声を漏らす。


「でも、忍足くん優しいね」
「はい?……いやいやっ、今の聞いとったんやろ?俺、結構酷かったと思うんやけど」
「白石くんには好きな人いるから無理だって言っちゃっても良かったのに」


私なら言っちゃうなー、とどこか楽しそうに言う名字に肩すかしにあう。何となく、自身があの子に好意を寄せていたのがバレている気がする。
不意に、視線が合った。


「私は、忍足くんのそういうところ、好きだけどな」


何となく、莫迦にされたような気がした。
(そんなん、あの子も言うとったわ)


「……なんなん、それ」
「え?」


忍足くん?と問い掛ける声に応えず、俯いたままゆっくりと息を吐く。胸の苛立ちを出来るだけ落ち着けるように、感情のままに怒鳴り散らしてしまわないように。
数秒して、先程のように笑顔を貼り付けて顔を上げる。


「そう言ってほんまは白石のがええんやろ?あの子も俺といるんが楽しくて好きやー言うてたけど結局白石やったしなー。ほんま慰めかなんか知らへんけどそんなん俺いらへんで?あんま簡単にそないな事言わへんほうがええよ」


全く感情を抑える事は出来なかったが。
それでも優しいトーンで、軽い調子では言えたはずだ。な?と首を傾げると、目を丸くしていた名字がすっと目を細めた。


「そんな笑顔いらないよ」
「は?」
「教室や部活のときに楽しそうに笑って、眉間に皺寄せて怒鳴って、また笑って。表情豊かな忍足くんは好きだけど、そんな笑顔の忍足は嫌だな」


今度は謙也が目を丸くする。彼女は目を軽く伏せているので視線が交わることはないが、雰囲気で名字が少し不機嫌なのが分かる。
何か伝えようと謙也が薄く口を開くと、名字は踵を返して歩き出してしまった。そしてただ一人、謙也はその場に取り残された。


「なんやの、笑った俺が好きや嫌いやって、どっちやねん」


ぽつりと零して、改めて名字の言葉を思い返すと、一気に顔が熱くなる。
好きってなんやねん、とその場にずるずるとしゃがみこみ、今度こそ誰が見ても情けないであろう姿で大きく息を吐いたのだった。




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へたれ。