「という訳で、二人には僕のコーディネートをお願いします!!」
「「……はぁ」」
キラキラとした瞳で高らかに声を上げる葵に、目の前に立つ二人は曖昧に返事した。
────事の発端は、六角中テニス部の部長であり二人の後輩でもある葵が、気になる女の子がいるのだという話からだった。
テニス部マネージャーの名字は、ほぉー剣太郎にもそんな春がきたのかぁ、としみじみとレギュラー達に弄られる彼を見ていれば、同じくぼんやりと葵を見ていた名字のクラスメートでもある天根と目が合い、良かった良かったとお互いに頷き合う。
「いやぁ良かったねぇ剣太郎ー」
「名前ちゃん!」
ひとしきり弄られた葵の肩を叩きながら近所のオジサンのようにハッハッハと笑う彼女に葵がパッと顔を明るくする。二人の傍に近付いた天根も、良かったという意味も込めて小さく頷くと照れ笑いを見せた。
「あ、あのさ」
「ん?」
「どした剣太郎ー?」
「二人は、明日暇……?」
おずおずと聞いてくる葵に、二人は目を見合わせる。
明日は日曜日。普段ならば練習試合が入るのだが今回は他校との予定がつかず珍しくオフのはずだ。別段予定を入れていない名字と、同じくなんならお笑いライブのDVDでも観るかくらいに考えていた天根は、葵に向き直り同時に深く頷いた。
「良かったぁ……じゃあ明日、ショッピングモールで待ち合わせしよ」
「「……ショッピングモール……??」」
よろしくね、と笑ってコートへと走っていく彼に疑問を持ちながら首を傾げて部活に戻っていったのだが。
「だーかーらー!コーディネートですよコーディネート!」
「うえ、おお??剣太郎のこーでねーとって、何したら?」
「コーディネートはこーでねーと……プッ」
「もぉー!!僕は真剣なんですよ!!」
次の日、ショッピングモールで合流して早々、冒頭のアレである。いきなり呼ばれて一体何なんだと疑問符を飛ばしている名字に不思議そうな天根の表情に、葵は頬を膨らませて呆れている。
「僕が昨日、クラスの佐々木さんの事、ちょっと気になってるーって話したじゃないですか」
「言ってたねぇ」
「その佐々木さんがどうした」
「その佐々木さんとのデートに向けた洋服を、二人にコーディネートして欲しいの!」
パッと満面の笑みを浮かべる葵に、昨日から何度目か分からないが二人が見つめ合う。コーディネートと言われても。
「それ、サエさんのが向いてるんじゃないか?」
「あとは亮さんとか」
天根、名字と思った事を口々に言えば、分かってないなぁと葵が肩を落とす。
「僕がサエさんや亮さんの選んだ服着たって、あんなに格好良く着こなせる訳ないじゃない」
「なるほど!」
「確かに。サエさんの着ている服は難しい」
「だ・か・ら!二人にお願いしてるんだよ!」
お願い、と手を合わせる葵に自分なんかでいいのか?と名字は未だ首を傾げていたが、そういう事ならばと天根が頷いた。天根の反応に葵が、ありがとうございますと嬉しそうに声を上げた。名字の意見は一切耳に入ってないようだ。その態度に眉を寄せつつ、可愛い後輩の頼みだしいいか、と無理矢理自身を納得させた。そこでふと疑問に思った事を口にする。
「なーなー剣太郎ー?」
「何?名前ちゃん」
「その佐々木さん、いつデート誘ったの?」
キョトン顔で尋ねれば明らかに制止する葵。見つめる天根。同じく見つめる名字。
「……さてはお前、まだ誘ってないなー?」
「う、うぐぅ…………はい」
嫌味のように両指で葵を差しながらそう言えば言葉に詰まった葵が観念したように項垂れて答えた。
デートに誘ってもないのに洋服を選んでくれとは、形から入っておこうという葵の考えが手に取るように分かって苦笑する。しかしお誘い出来てないのでは意味が無い。私達には先ずやる事があるな、と名字が葵の肩を叩いてから、グッとサムズアップした。
「剣太郎、とりあえずマ。ク行こうぜ」
────……
「女の子をデートに誘う方法なんて分かんないよぉ……」
Mサイズのお茶をずるずると飲む名字の横で頭を抱える葵を、ポテトを頬張りながら天根が見つめている。
「ダビデはなんかあるー?」
「……素直に会いたいって言う」
「月曜から金曜まで教室で会ってるよ……」
「君の私服が見たいんDA!」
「それじゃ変態だよ名前ちゃん……」
「素敵な私服でステーキな至福の時間……イマイチ」
「ダビデそれイマイチだよぉ」
「二人とも真剣に考えてる……?」
「あっ!俺のテニスを見に来てくれ!?」
「それだ」
「やりぃ!」
軽快なハイタッチを交わす二人に、葵は深い溜息を吐いた。相談相手を間違えてしまった感が否めないが、そんな二人にデートに誘ってないという事を指摘されたのも事実であり、もう一度溜息をつく。剣太郎幸せ逃げるぞー?なんて言いながらポテトを頬張る先輩二人に乾いた笑いを漏らすが、しみじみと天根が口を開く。
「でも、テニスはいいと思う。テニスしてる剣太郎はカッコイイからな」
「分かるー!カッコイイとこ見たら女の子だってキャーキャー言っちゃうって」
「……そ、うかなぁ……」
自信無さげな葵の肩を少し合ってから二人が笑って叩く。へらりと笑う名字に、余り表情を変えない天根が小さく口元を緩ませているのを見て、葵がありがとうと笑い返した。
────……
そして迎えた火曜日。
「ダメじゃん俺をフリーにしちゃ」
「キャーーー!!!!!!」
「佐伯先輩、カッコイイ……」
ゲーム形式の全体練習があるからと、誘い文句を散々考えて月曜日に噂の佐々木さんを誘う事は出来たのだが。
「……ねぇ、これはどういう事なの」
「ショージキ、ヨソーはしていましたが、こーくんのイケメン力を、ナメてました」
「……ダビデ、」
「佐々木の心はササッと消えた……プッ」
「面白くねーんだよダビデ!」
「ちょ、バネさんタンマっ!!」
「待って、待っ……イケメン力って何……!」
「亮笑いすぎなのね……」
佐伯と首藤の試合になった途端に葵のクラスメート女子その他による黄色い歓声は全て佐伯に注がれており、件の佐々木女史もうっとりと佐伯の試合を見つめている。直前にあった葵の試合など、恐らくこの場の女生徒の記憶にはもう無いだろう。
もう二度と、一個上の先輩達の言葉は信じない。涙を堪えて葵はそう固く誓ったのだった。
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