「はい、どーぞ」
「わーい、ありがとう!」
手渡された飲み物を受け取ると、彼は名字の隣へと座った。2人の足元には大量の紙袋が置かれており、それらは全て名字の物である。幼馴染でクラスメートの木更津を連れてショッピングモールに行くぞ、と決めて声を掛けたのは昨日の夜。突然の事であるにも関わらず、こうして付き合ってくれるのだから木更津は本当に優しいと思う。
「砂糖3本とか店員さんに頼むの恥ずかしかったなぁ」
「甘党で悪うゴザイマシタネ」
毎度一言多いのだが。トゲのある言葉を返せば彼はケラケラと笑った。どうしてこんな男が好きなのだろうかと、受け取ったホットティーを両手に包んで一口飲む込む。いつも自身が頼んでいる味だと気付き、思わず口元が緩む。何が飲みたいとも言っていないのに、名字がいつも飲んでいるものを買ってきてくれたという事実が単純に嬉しかった。
「何、それじゃなかった?」
「ううん、これで合ってるよ」
「……砂糖足りないとか言わないよね」
「言いませんー」
膨れる彼女に木更津が笑ってその頬を指でつついてくる。こういう男なのだ、木更津亮というのは。此方がどんどん好きになっていくというのに、時間が経つにつれて『幼馴染』という関係が邪魔をしてくる。この想いを伝えて、今の関係が無くなってしまう方が名字は怖かった。そこでふと、何故彼がこんなにも自身に付き合ってくれるのだろうかと考える。ぼんやりとホットティーを見つめる名字に、不思議に思ったのか木更津が顔を覗き込んでくる。
「どうした?怒った?」
「あ、いや……亮って暇人?」
「え?喧嘩売ってんの名前」
「ごめんて。なんか、いつ誘っても付き合ってくれるからさ」
「あー……まぁ、お前からだし」
「え?」
木更津の方へ視線を向けると、名字からそっぽ向いている彼が大きく溜息を吐いた。
「ほら、休憩終わったら次行くんだろ」
「あ、うん……」
おもむろに紙袋を手に取って立ち上がる木更津に、慌てて名字も立ち上がる。名字からだから、とはどういう意味なんだろうか。カバンを持ち直しながらちらりと彼を見上げる。いつもと変わらぬ様子に特に意味など無かったのだろうかと考えるが、どうしても名字にとって都合の良い解釈になってしまう。
(私だから、急な誘いでも遊んでくれてるって事、だよね)
口元が緩んでいくのを止められず声に出して笑えば、気持ち悪いよ、と軽く返された。いつものノリで軽く腹パンすれば木更津が、痛いんだけどと言いながらも楽しそうに笑う。意地の悪い笑顔も、こうして笑った顔も好きだと、いつか言える日が来るのだろうかと隣を歩く。
「……ねぇ名前」
「ん?何?」
呼ばれて顔を上げれば、じっと顔を見つめてくる木更津に照れ臭く感じながらも逸らすのも変かと控え目に首を傾げる。すると空を仰いで再び溜息を吐いた。
「やっぱ、何でもない」
「え、気になるんだけど」
「言葉にするのは少し、怖いから……また今度ね」
いつの間に持ち直したのか両手にあった紙袋を右手に全て持っていて、空いた左手で彼女の頭をぽんと一つ叩く。
こういう男なのだ、木更津亮というのは。そのまま飄々と先に歩いて行ってしまった木更津の背中を見ながら、真っ赤になった顔をホットティーのカップで隠すように俯いて名字は後を追った。
木更津の言う「また今度」が近いうちにくるのはまた別のお話。
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