ねぇ、こっち向いて?


(ねぇ、こっち向いて?)

視線の先の人物は友人達と楽しげに会話している。しばらく見つめていたが、ふと諦めたように目を逸らし息を吐く。
片思い歴2年とちょっと。にして、ようやく願い叶って交際が始まったのだが、どうにも名字は腑に落ちない。
原因は先程の視線の先の人物、彼氏の佐伯虎次郎。付き合って3ヶ月たって新学期も始まったというのに、何にも進展がないのだ。

(そりゃ、私から告白したけどさ)

再び溜め息を吐いて、机に項垂れる。付き合うことになったときは嬉しくて舞い上がっていたが、今では不安や嫉妬で疲れるばかりだ。
佐伯は誰にでも優しく、爽やかな好青年。正直、本当に私が付き合っていいのかと名字が思ってしまうような、所謂イケメンである。それも相まってか、女の子と話している姿を見かけるだけでそわそわと落ち着かない気持ちになってしまう。流石に、会話しないで、とまではいかないが、いつからか自分をちゃんと見て、と考えるようになっていた。しかし、嫌われたくないので言い出せず、こうして落ち着かない日々を過ごしていた。


「何、溜め息ばっかり吐いてると幸せ逃げるよ」


3度目の溜め息を吐いたところで不意に声を掛けられる。顔を上げれば、佐伯が呆れたように笑っていた。名字が驚いて目を見開くと、どうしたの、と頭を撫でられた。


「な、んでもない」
「………俺ね、束縛してくれる子が好きなんだけど」
「……は?」


突然どうしたのか、と首を傾げると目を軽く伏せてから名字と同じ視線まで屈んだ。


「名前は、俺に興味ないかな?」
「そんな事、ない……虎次郎くんのこと色々知りたい」
「じゃあダメだよ、俺をフリーにしちゃ」


いつものように爽やかな笑みを浮かべてそう言うと、距離をぐっと近付け、佐伯の顔が間近に迫る。


「ねぇ、こっち向いて?」


ニッと、どこか不敵な笑みで囁くように発された言葉に、名字は耳まで顔を赤くしてまるで金魚のように口をパクパクさせる。そんな彼女の様子に佐伯は声を上げて笑った。


「それは私の台詞ですぅう」
「えぇ?本当に?」


両手で赤くなった顔を隠して反論すると、佐伯は再び笑った。
佐伯虎次郎という男はやはりズルい。
そんな事を思いながら、名字は自身をあやすように頭を撫でてくる彼氏の肩口を、馬鹿、と軽く叩いた。



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ただのバカップル。


お題「二人でほのぼの50題」
ねぇ、こっち向いて?
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