Happybirthday


「今日誕生日なの!祝って!!」
「自分で言いますか?普通」


部室を開け放って早々に声高らかにそう発した名字に大して、間髪入れずに怪訝な顔をして睨み上げてくる生意気な後輩を一拍置いて見下ろしてから、だって、と隣に座る。すると近くにいた同級生が呆れた様に笑った。


「お前、二週間くらい前からずっと言ってたから嫌でも覚えてるっつーの。ほらよ」


同級生───向日が名字の膝の上に少し大きめの可愛らしい袋を投げ置いた。手にしていたスコアボードを軽く持ち上げて、まるで降参のポーズのような体勢で制止した名字に、なんだよ、と不思議そうに向日が首を傾げる。


「……プレゼント、貰えるとは思ってなかった」
「はぁ?お前プレゼント欲しいからずっと誕生日言ってたんじゃねーのかよ」
「本当にお祝いの言葉だけのつもりだったんですか」
「いやだって、この時期って卒業式前だし……って、何これ」
「誕生日おめでとうございます」


生意気な後輩もとい日吉が、いつの間に出したのか名字の膝の上に向日のプレゼントに比べると小ぶりな箱を落ちないように乗せた。シンプルな和柄の包装紙に包まれたそれを呆然と見つめていると、誰かが隣に立つ気配に顔を上げる。


「俺達からもあるんで、良かったら……。誕生日おめでとうございます」
「誕生日、おめでとう……ございます」


ニコニコと微笑む鳳と樺地の二人からも差し出されて、慌てて受け取ろうとするが手にあるスコアボードをどうしようかと戸惑っていると、隣の日吉が何も言わずに名字の手からスコアボードを取り上げる。ありがとう、と日吉に言ってから改めて二人からプレゼントを受け取り、もう一度ありがとう、と呟いた。
鳳からは淡い色のリボンがワンポイントの袋、樺地からは小さな桜色の袋を手渡され思わず顔が綻ぶ。


「……へへっ、やった」


ぽつりとそう零してから立ち上がり、自身のロッカーへと向かう。両手いっぱいのプレゼントを抱えたまま樺地に助けられながらロッカーを開けて仕舞い込む。そのまま扉を閉めようとして、手が遮るように伸びてきて驚いて手を止めれば、悪い、と眉を下げる宍戸が名字に何かを手渡した。手の平サイズの小箱は箱いっぱいの大きなリボンが巻かれていて、まさかと顔を上げると、誕生日だろ?とニッと笑った。
皆わざわざ準備してくれてたのかと、呆ける名字の背中に突然タックルをかますように何かが突っ込んできて、ロッカーの中に多少体がのめり込む。一体何だと視線をやれば芥川が満面の笑みで腰に抱きついていた。その手に、可愛らしいラッピングの大きなプレゼントを持って。


「名前、誕生日おめでとー!」
「え、ジロちゃんまで?」
「これ超カワEーから気に入ってくれると嬉Cー!!」
「あ、ありがと……!」


誕生日の日に引退した三年も集まると知ったから、家族以外にも祝って貰おうと前もって誕生日だからと言ってはいたけれど。クラスの女子のようにお祝いの言葉とたまにコンビニのお菓子くらいを貰うような、そんなものを期待していたのに。受け取ったプレゼントの山をぼんやりと眺めて、胸の奥が暖かくなるような感覚に口元が緩む。


「なんや、ぎょうさんもろとるなぁ」
「忍足」
「皆に比べたら大した物やないけど、誕生日おめでとう」
「……休みになる前に、誕生日プレゼントってお菓子くれたじゃん」
「クラスメートもおるのに下手に渡したら色々面倒やろ」


ええから受け取り、と芥川のプレゼントの上に乗せられたプレゼントに目を丸くして、小さくお礼を伝えれば、いつの間にか近くに来ていた向日が茶化すように肩を軽く叩いた。
気が付けばラケットバッグの手前は山積みのプレゼント。カバンに入り切るだろうかと思案したところで部室の扉が開かれる音に全員が其方を見る。


「ったく、レギュラー全員此処にいろとは言ってねぇぞ」
「跡部」
「あ、やば。スコアボード終わってない、ちょっと待って日吉貸して」
「いや、それは今日はいい」
「は?お前がこれ今日までにやっておけって、」
「跡部ー準備終わったのー?」
「え」
「───あぁ。行くぞお前ら」


ニヤリと笑う跡部に、レギュラー達は思い思いに扉へと向かう。理解が追いつかない名字に、忍足が背中をぽんと叩き、鳳が扉へとエスコートしてくれる。何も理解出来ぬままに、ロッカーを閉じてから彼等に着いていけば、見えるのは見知ったテニスコートに、沢山の部員達の姿。先陣切っていた跡部の姿を見るとざわつく部員達が静かになり、その中にいた滝がせーの、と掛け声をかけると、


「「Happybirthday!!」」


クラッカーの音と共にコートに響いたのは祝いの言葉。よく見れば簡易的ではあるがオードブルが立食パーティーのように準備されており、部員達が指笛を吹いたり拍手したりと大騒ぎしている。


「何、これ」
「俺様からのサプライズパーティだ。学校でやるからささやかなものだが、お前の好きなものは大体揃ってる」


輪の中心へと押し込まれて戸惑う名字に、跡部が不敵な笑みを見せる。
この準備をしていたから、コートに行かないような一人でやる作業を任されていたのかと今朝の跡部からの仕事内容など思い返して、再び跡部から皆へと視線を移す。部員全員が、自分を祝ってくれている事が、こんなに嬉しいなんて思いもしなかった。
泣きそうになって、僅かに俯いてから目を擦ると、一呼吸置いてから顔を上げ、名字は今日一番の笑顔で皆に向かって叫んだ。


「皆、ありがとう!!!」



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氷帝マネジ渡瀬理名さんのお誕生日小説。