「私は……本気で好き、だったのかなー……」
何にも興味のないような声でぽつりと呟いた彼女が、とても美しいと、そう思った。
「なぁ、」
「なぁに?」
「木手は、さ。やーの事、好きだよ」
「嫌い、って言われた」
(知ってる。全部見てたから)
「好き、って本気で言ったのに」
(知ってる。やーが去った後、あにひゃーが涙した事も)
「だからそんな慰め、今は苦しいよ……」
「あにひゃー、は……、自分といたら、やーを傷つけちまうと思ってるんだ」
「………何で?」
「今まで、人を傷つけながら進んできたから……」
彼らは勝つために闘い続けた。今までの苦難を無駄にしないために、他人を傷付けてきた。
そうやって生きてきた人間が、例え大切な人だろうと傷付けないという保証があるのだろうか。
(わんは、きっと無理さー)
答えは"ノー"だ。
彼らだけではない。どんな形であれ、人は人を傷付けてしまう。だけど、彼らはそれ以上に人を、大切な人を手酷く傷付けてしまうかもしれない、と不安だった。
「だからさ、やーの事それだけ好きなんよー」
「………ふざけないでよ」
「ぁん?」
「今以上に傷付けられる事なんて、ない」
彼女は教室を飛び出した。
慌てて甲斐は、木手の居場所を伝えるため叫んだ。彼女は立ち止まり、少し振り返ると微笑み、小さく口を動かした。
「………"ありがとう"か」
彼女が口にした言葉は、音として甲斐には届かなかったけれど、彼にはわかった。
あの時涙していた木手の姿と、先程の彼女を思い浮かべ、恋をする人は美しいと、彼は思った。
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