バレンタイン跡部


『今日が何の日か覚えているか?』

そんな電話を貰ったのは一時間程前の話。
今日は休日だったために慌てて身支度を済ませて何処に行けばいいかと返せば、もう夜も遅いので其方に向かう、と連絡が来たのが先程の話。いつもいつも勝手な男だ、と思いつつ机の引き出しを開ける。丁寧に梱包されたシンプルな小箱が一つ。息を吐いてそれを机の上に取り出した。
今日が何の日か。そんな事知ってはいるが休日だからと諦めていたのに。指で小箱を軽く弾けばチャイムの音が聞こえてきて携帯にメールが来てるのを確認してから部屋を出た。


「よォ」
「……こんな時間に、何考えてんのよ」
「こんな時間まで、お前から連絡が無かったからな」


人の家の玄関で不敵に微笑む男に溜息を吐いた。両親が中へと促しただろうけど、きっとこの男────跡部は断ったのだろう。私へのメールのように、もう夜も遅いので玄関で大丈夫だ、と。そういった気が回せるのに何で明日にしようという頭は無かったのか、と言いたくもなるが言った所で軽く流されてしまうのが目に見えている。それよりも何か連絡しないといけない事でもあっただろうかと首を傾げる。そんな私の様子を見て跡部が目を逸らして息を吐いた。


「惚れた女からこの日に貰いたいと思うのは、男なら誰でも思うだろうが」


ぽつりと零した言葉はこの男には似つかない言葉で、呆ける私に手を差し出してくる。


「流石にお前からだけは、俺でも自信が無いんだよ。それで、あるのか?」
「ある、けど……そんないいものじゃないよ」


そう背に隠していた小箱を手渡せば、本気で貰える自信が無かったらしく目を見開く跡部が少し合って受け取った小箱で顔を隠した。


「嬉しいもんなんだな、チョコレート一つなのに今なら本気で何でも出来そうだ」
「……よくも、そんな恥ずかしい台詞を」
「本当の事だから仕方ねぇだろ」


ありがとな、と此方に顔は見せずに礼を言う姿がいつもの彼とは違って、此方まで顔が熱くなっていく。


「持ってないかもって思ってた奴の行動力とは思えないんですけど……」
「うるせぇよ、夜分に悪かったな。また明日」


そう言って小箱片手に去っていく男の背中を見て、明日からどんな顔をして会えばいいのかと火照る頬を押さえつけた。



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バレンタイン当日ネタ
跡部『よくもそんな恥ずかしい台詞を』