祝われる僕より、祝ってくれる貴方が嬉しそうだから


今年は四年に一度の誕生日だから。
そう笑って話す彼女の顔が浮かんで、ふと笑みが零れる。


「周助、名前ちゃんが来るからってご機嫌ね」
「やだなぁ姉さん、僕はいつもこうだよ」


そう返すが、内心少し浮かれているのかもしれない。そんな気持ちを見透かしているのか、あらそう、と軽く姉の由美子がメレンゲを混ぜながら返す。
今日は2月29日。四年に一度だけ訪れるこの日は彼、不二周助の誕生日である。そして今日はクラスメートの名字名前が周助の家で開かれる誕生会に来る事になり、何故か由美子が張り切ってパーティの準備をしているのだ。
名前はよくある【友達以上恋人未満】という関係だ。好意を寄せているし、寄せられているのも何となく感じてはいるが。食器棚から人数分の食器を取り出しながら小さく息を吐く。このままの関係で幸せだと思うのに、それ以上を望むのは贅沢な気がしてしまうのだ。姉には、テニスの時くらい貪欲になりなさい、と怒られたが。再び準備の手を進めれば、チャイムの音が鳴り響く。


「僕が行くよ」


そう姉に微笑んでからリビングを出る。きっと少し息を切らした彼女が待っているんだろうと、その姿を想像して足取り軽く玄関へと向かい、鍵を開けて扉を開く。


「こん、にちはっ!」
「いらっしゃい、名前さん」


予想通り息を切らせた名前が、頬を赤く染めて笑うのを、優しく微笑んで家へと招き入れる。恐らく走って来てくれたのだろうと、その様子も容易に想像出来て胸の内が暖かくなる。ふと彼女が大きな荷物を抱えている事に気付き、首を傾げる。周助の視線の先に気付いたのか、名前が満面の笑みを彼に向ける。


「あのね、これは皆で出来そうなゲームとか、あとうちで作ってきたお菓子とね、それから、」
「そのくらい、こっちで準備したのに」
「あと周助くんへのプレゼント!」


パッと笑う彼女に呆気にとられていると、一生懸命選んだんだよ、と鞄を幸せそうに見つめて照れたように頬をかいた。そんな名前の横顔が愛しくて、ふっと微笑んでから彼女の荷物を受け取り、どうぞ、と奥のリビングへと促した。おずおずと中へと入っていく名前の様子に、まるで初めて家に遊びに来たようだと笑えば、少しだけバツが悪そうに顔をしかめた彼女が、そういえば、と周助へと向き直る。


「裕太くんは帰ってくるの?」
「あぁ、遅くなるみたいだけど」
「そっか。良かった!」


満面の笑顔を見せる名前に、少し合ってからそうだねと返す。弟の裕太が帰ってくるのは確かに嬉しいのだけれど、彼女がこんなにも嬉しそうなのは心情的には少し微妙である。こんな事由美子に知られれば、だから言ってるでしょう、とそれこそ怒られそうではあるが。
どうかした?と首を傾げる名前に、何でもないという意味も込めて右手を軽く上げてから、はたと止まる。今日は四年に一度の誕生日なのだ。そんな日にモヤモヤを抱えるのもどうなのだろうか。


「周助くん?」
「名前さんは」
「?うん」
「裕太に会いたかったの?」


小首を傾げ問いかければ、名前が分かりやすく目を丸くするのが分かって、自分自身の言葉の足りなさに内心苦笑する。まるで自分に会いたかった訳ではないのかと責めるような、そんな幼稚な嫉妬を見せているような聞き方しか出来ない自分に、少しの恥ずかしさと申し訳なさに眉を下げて目を伏せれば、彼女がえっと、と言葉を零す。


「今日、周助くんの四年に一度しか来ない誕生日でしょ?」
「……うん」
「そんな大切な日に、周助くんの大好きな人が周助くんのために来てくれて、お祝いしてくれるの、凄い嬉しいな……って」


思って、と俯く名前に、今度は周助が目を丸くする。彼女は誕生日である本人以上に、この日を喜んでくれているのか。思わず緩んだ口元を隠すように手を当てる。

(ああ、困ったな。本当に好きだ)

裕太くんに会えるのも嬉しいけどね、と慌てて弁明する彼女に、くつくつ笑いながらそうだねと返す。好きな人が自身の事をまるで自分の事のように考えて喜んでくれるのが、こんなにも嬉しいなんて。本当に今日は最高の一日かもしれない。
あのね、と名前に一歩近付いて、少しかがんで耳元に口を寄せる。


「名前さんも、僕の『大好きな人』だからね」


そう言って顔を見れば、静止していた彼女がみるみる真っ赤になっていき、終いには唇をキツく結んでそのまま湯だってしまいそうな様子に、周助は満足そうに笑う。
今日は大好きな人達が自分を祝ってくれる。何より、祝ってくれる貴方が嬉しそうだから。
遅いけど何してるの?と訝しげにリビングから顔を出した由美子に、真っ赤なまま何も言えない名前とは裏腹に、嬉しそうな周助が何でもないよと返すのを見て、今までの関係に何か進展があったのだろうと察して嬉しそうに微笑むと、何も聞かずに二人を中へと促したのだった。