インパクト


 
「どっちがいいかな?」



突然の問い掛けは決して突然では無くて、実際は、直前までクラスメートと誕生日おめでとうやらいくつチョコが貰えるだろうか等のやり取りを、多分彼女が聞いていたからだろうと考えられる。
が、しかし。そこまで冷静に推理する間にも眼前の彼女は、丁度視線の高さに手のひらサイズの可愛らしい箱を今にも投げつけんばかりに構えている。

もう一度言おう。
今にも投げつけんばかりに構えている。





「えっと…可笑しくない?」



色々と推理したにも関わらず、口を開いて出たのはその一言だった。随分間抜けである。

今日2月14日はバレンタイン。でもあるが、彼、鳳長太郎の誕生日でもある。少なくとも喜ばしい今日この日に、鳳は箱を、しかも恐らくプレゼントであろう箱を、投げつけられようとしている。しかも、クラスメートの女子に馬乗り状態で。
端から見ていたら実に滑稽な姿だろう。そして自身は実に間抜けな表情をしているだろう。
思い返せば、今日という日に落ち着きの無い同級生達からのやっかみから逃れようと教室を出て、不意に名前を呼ばれたと思ったら今の状態になっていた。これは、押し倒されたのだろう。きっと。
先程から、多分とか恐らくとかきっと等の曖昧な表現を使っているが、鳳にはそう言うしかない。そのくらい動揺していた。




「可笑しく、ないよ。誕生日プレゼントとしてかバレンタインとしてか、どっちがいいかな?って聞いてる、だけ」
「いやいやいやっ!可笑しいって言うのはそこじゃなくて今の状況で、」
「今?…どこか可笑しい?」
「何で名字さん跨がってるのとかそのプレゼントは何で投げる態勢にあるのかとか色々ツッコみたい」



至極当たり前のように首を傾げる名字に、鳳はいっそ悟りを開きそうだった。
名字はクラスで一番仲が良いといえる女子だ。この状態では説得力がないが、彼女は少しおっとりしたところのある普通の女の子である。本当に、クラスメートの男子に馬乗りになって首を傾げるような子ではないはずだ。はずだった。
女子と密着しているのに何だか嬉しくないこの事態に、鳳が渇いた笑いを漏らすと名字は眉をハの字にする。




「だって、どうしたら、鳳くんの印象に残るかなって思ってね」
「印象?」
「みんな、凄いじゃない?『長太郎くんの一番になりに来ましたぁ!あざっす!!』とか」
「あぁうん。今朝のアレは凄かったね。運動部を履き違えた感が」
「全部髪の毛のマフラーとか」
「怖すぎて宍戸さんに処分してもらったよ」
「人が口にするような色じゃないお菓子とか」
「いっそ彫刻品みたいだったよ、クオリティとサイズが凄かった」



何でそれを名字が知っているのかはこの際気にしない事にした。
今朝の出来事を思い出して遠い目をしていると、名字が、だからね、と続ける。




「だから、どうしたらいいかなって考えて、もう投げつければいいかなって…!」
「いやっ近い!近いから名字さんっ!」
「遠いと当たらないもん」
「というより十分インパクトあるからね」




そう、十分過ぎる程インパクトはあるのだ。まさか、名字が自分に跨がってくるとは思っていなかったのだから。
そもそも何故そんなにも印象に残さなくてはいけないのだろうか。ふと考えて、今朝の彼女達の行動が頭によぎる。

(まさか、ね)

自意識過剰な事だと直ぐに頭を振った。
そんな鳳に気付く事無く、名字はきょとんとした表情で鳳を見下ろしている。





「インパクト、あった…?」
「え?あ、あぁうん」



あったよインパクト、と返せば、少ししてから名字はへへへっと嬉しそうにはにかんだ。
一瞬、その表情にどきりとするが、その直後に、はい、と差し出された小さな箱に慌てて手を出す。



「誕生日おめでとう、鳳くん」



笑う名字に、間が合ってからつられて鳳も笑った。









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「とりあえず下りて、名字さん」
「あっ、ご、ごめんねっ」
「いや、大丈夫。…ほんと、ありがとう」
「ううんっ!鳳くんのためというか私のためだし!」
「名字さんのため?」
「私が鳳くんにあげたかっただけだもん」
「…えっと、(それってそういう意味なのかな)」