この気持ちが聞こえたら


もしも、この気持ちが聞こえたなら、

(君はどんな顔をするんだろう?)

小さく息を吐くと名字が顔を上げた。交わった視線に戸惑いながら笑みを浮かべると、彼女は首を傾げた。




「どうしたの?鳳君」
「ううん、何でもない。早く終わらせようか」



そう言って微笑むと目の前の少女はうんと笑顔で頷いた。
放課後、担任に頼まれたプリントをホチキス留めしていく作業に勤しむ。鳳と名字は今日の日直で、必然的に雑務を頼まれる。他の人ならば嫌がるが二人は対して気にならず、黙々と作業をしていた。大した会話もせず、黙々と。
ふう、と溜め息を吐く。好きな人と折角二人きりでも会話が無ければ進展も何も無い。分かってはいても真面目な性格の鳳は作業に集中してしまい、同じく名字も作業に集中している。その邪魔も出来ず今に至っている。




「なんか、疲れちゃったね」


話し掛けられ顔を上げると、休憩しよっか、と髪を揺らして名字が笑った。一瞬言葉に詰まるが、直ぐに笑みを浮かべて頷いた。
恐らく鳳の溜め息に気付いた彼女の配慮だろう。そういうところに、鳳は心惹かれていた。




「結構、あるね。名字さんはこういう作業辛くない?」
「うん、大丈夫。鳳君も一緒だし」
「そっか。ならいいんだけど」
「でも、日直で一緒になったのが鳳君で良かった!」
「え、」
「鳳君優しいし、作業してて静かでも、なんか…空気が嫌じゃないから、落ち着く」



うん落ち着く、と自分の中で納得したのか頷いている名字を呆然と見ていたが、フリーズした頭が徐々に彼女の言葉を再生していくと共に顔が熱くなる。
赤くなっているであろう顔を肘をついている手で覆い、名字から顔を逸らす。




「名字さん、急にそういうの、駄目…」
「え?」



この気持ちが聞こえたなら、きっと今の自分は大層格好悪いのだろう。
そんな事を思いながら、疑問符を浮かべる名字を余所に、鳳は火照る頬を隠すように机に伏せた。




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お題「二人でほのぼの50題」
この気持ちが聞こえたら
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