ゆっくりと恋してる


屋上に吹く風は汗ばんだ体に心地よく、ふっと深呼吸をする。
この暑い日に冷房の効いた食堂や講堂ではなく、屋上に訪れたのには理由がある。辺りを見回して、建物の陰に揺れる金髪を見つけて小さく名字は微笑んだ。




「ジロちゃん」
「んー…?」


寝ぼけた表情で、名字を見上げた芥川は、彼女だと理解すると満面の笑みを浮かべた。






何となく向かった屋上で芥川が寝ていて、話はあまりしたことないが、このまま寝ていてお昼を食べ損ねてしまっては、と彼に声を掛けたのが始まりだった。



『芥川くん、』
『んー…?誰だCー?』
『同じクラスの名字名前。もうお昼だよ』
『え!?マジ!?』


うん、と頷いてからケータイのディスプレイを見せると、お昼買い損ねた、と彼が肩を落とす。
ふ、と自身の手元のパンを見て、そして芥川に向き直った。



『良かったら、これ食べて』
『…Eーの?』
『お弁当あるから大丈夫』
『名前ちゃん、やっさCー!』


急に飛びつかれ後ろに転びそうになるが、何とか倒れずに済む。ほっと一息吐くと、抱きついていた芥川が顔を上げる。



『名前ちゃん!』
『な、なに?芥川くん』
『ジローでいいCー!で、お願いなんだけど』
『お、お願い…?』



首を傾げれば、満面の笑みで芥川は頷く。



『俺、よく寝ててお昼食べ損ねるんだけど、』
『うん(やっぱりそうなんだ)』
『明日から名前ちゃんに起こしてもらいたいんだー』



俺あったまEー、と笑う芥川に目を丸くしたのはまだ記憶に新しい。

それからは、クラスメートの芥川に弁当を届けるのが彼女の日課になっていた。
最初は特に意識もしていなかったが、彼といる時間はゆっくりと流れ、その心地良さと芥川の人柄に日に日に惹かれていた。





「俺、」
「ん?」


ご飯を食べて、一息吐いていると、芥川が口を開く。先を促すように問い掛けると顔を上げた芥川と目が合った。



「名前ちゃんといる時間が好きだCー」



無邪気に笑う芥川に、きょとんとすると名字の膝を枕にして彼は寝転んだ。
自由だね、と名字が笑えば芥川は小さな子どものように笑った。
きっと、日々の何気ない事に惹かれていくのだろう。膝で眠る芥川の髪を撫でながら名字は目を閉じた。



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お題「二人でほのぼの50題」
ゆっくりと恋してる
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