「次の訓練に移れ」
そう淡々と告げられ、別の場所へと移動していく他の訓練生を横目に、小さく溜め息を吐いた。
今、私達がやってる訓練は目の前にある岩を拳で真っ二つにする、というシンプルなものだ。同期の皆はお互いにこうした方がいい、ああしたらどうだろう、なんて話しながら構えたりなんかしてる。ちなみに次の訓練に移っているのは先輩達で、同期達ではまだいない。聖域に来て一年程で小宇宙を扱える者は少ないって童虎さんも言っていた。かく言う私も小宇宙に目覚めてはいるらしいけど、童虎さん曰わく破壊の根本を分かっていないから、ご覧の通り目の前の岩は丸々としたままである。溜め息だって吐きたくなる。
しかし、私は別に小宇宙が扱えない訳じゃない。破壊は、出来ないだけで。ここ重要。
「なぁリン!」
訓練にも飽きてきて、そろそろ聖闘士達の目を盗んでシホリに会いに行こうか、なんて考え始めていたら突然名前を呼ばれて思わず肩を揺らす。ゆっくり振り返れば、同期達の中心にいたレグルスくんが大きく手を振って呼んでいた。なんだ、サボろうとしたのバレたのかと思った。というか、え、これ行かないとダメかな。呆然としてると早く!と急かされたので、気が向かないが重い足取りでレグルスくんの方に向かう。
レグルスくんが私を呼んだのも驚きだろうが、私が素直に近付いたのも驚きなんだろう。皆、微妙な表情で私を見てる。耶人なんかは眉間にシワが寄っているし。まぁ訓練はサボるわ、同期と関わる気がないわじゃ良い印象はないだろう。そもそも今日だって童虎さんに連れて来られてしぶしぶ参加してるのだ。童虎さんとの修行や個人的な特訓だけでいいじゃん別に。わざわざ皆とやらなくてもいいのに。
「何?」
レグルスくん相手に冷たい態度を取るつもりはなかったけど、色々モヤモヤしたのと周りの空気が気まずくて素っ気なく問い掛けてしまう。何だよその態度、と誰かが言うのが聞こえて更に後悔するが、言っちゃったものは仕方無い。ちらりとレグルスくんを見れば、そんな私の気持ちなんか分かってるぜ、ってくらいあっけらかんと笑っていた。
「リンはコレ割れそう?」
「え、やっ…無理、だけど」
「そっかぁ」
「レグルスくん、は?」
「ひび入るくらい!」
それでも十分だと思うんだけど。レグルスくんの後ろの方で微妙な顔してる耶人を見て、思わず私も苦笑してしまう。レグルスくんは本当に向上心が凄いと思う。
「だから言ったろレグルス、小宇宙に目覚めてるとか嘘なんだよ」
感心していたら、横にいた奴がレグルスくんにそう言ってから私の視線に気付いて目を逸らした。
(あぁ、やっぱり)
私が敬遠されているのは知っていたけれど、こうして目の前で聞くと結構キツいものだ。
小宇宙で何かを破壊したのは童虎さんに出会ったあの日だけだ。今だって、破壊は出来ない。そうじゃない事は出来るけど、それは破壊の根本を理解するまでは皆の前では使うなと言われてるから、見せた事はない。そんなの皆からすれば、小宇宙に目覚めてないのと一緒だろう。例え、それが小宇宙に目覚めていようといまいと、妬みの対象になるんだろう。他の奴らにも目を向ければ、皆慌てて目を逸らす。あぁ、面倒臭い。息を吐いて皆から背を向ける。
「リン?」
「何処行くんだよ」
レグルスくんと耶人に声を掛けられて、ちょっと立ち止まる。
「サボる。あとよろしく」
「ハァ!?お前なぁ!」
「何を騒いでいる」
耶人に肩を掴まれるのと同じタイミングで、訓練を見ていた闘士に声を掛けられる。ふと見ればいつだか私に鞭を打った奴だった。なんだろう、今日は厄日なのか。私の姿を見て、男は舌打ちした。
「また貴様か」
「…私、もう行きまーす」
「っ馬鹿にしているのか!小宇宙も使いこなせないガキが!」
「馬鹿お前っ、すんません!コイツ調子悪いみたいで」
何故か耶人が代わりに謝ってて不思議な感じがするが、 正直私はもうこの場を去りたい。無理矢理私の頭を押さえつけて頭を下げさせる耶人と、その横でレグルスくんまですみません、なんて謝ってて、どうして私や二人が謝らなきゃいけないんだろうとぼんやり思った。
「やはり、童虎は見る目が無いようだな」
舌打ち混じりに吐き捨てられた言葉に、胸がざわつく。同時にじぇみにの聖闘士さんの言葉がよぎった。
「…れば、んだろ…」
「なんだと?」
「破壊すればいいんだろ!?」
耶人を振り切り近くの岩へと近付くと、右手に左手を添えて左側へと引いて構える。自分の中の力が大きくなっていくのを感じる。破壊の根本なんか分からないけれど、イメージは、ムカつくあの闘士の横っ面をぶん殴る感じ。
ふっと一気に息を吸い込み、勢い良く右腕を振り切る。その瞬間、岩は右へと吹っ飛び隣の岩にぶつかって二つに割れた。
静かになった其処から、皆の方を振り返らずに去ろうとする私をレグルスくんが呼んだけれど、悔しくて泣きそうな顔を見られたくなくて足早に進む。
「怪力かよ…」
ぽつりと呟いた耶人の声が、その場にやけに響いていた。
