01



 
あの日、あの時、どうして私は皆と一緒に死ぬことが出来なかったのだろうと、今でも後悔する瞬間があることを、あの人に伝える事が出来ずにいる。










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空は澄んでいて、俗に言う「良い天気」。昼寝日和だなぁ、なんて事をぼんやりと考えてその場に寝転がった。
町から少し離れた丘に来るのが、いつの頃か私の日課になっていた。風を感じて、大地の音を聞き、目を閉じる。そうしていると何故か気分が落ち着いた。自分の中にある、…何と表現するべきなのか分からないが、大きな力を自然の力と同調させるような、そんな感覚がとても好きなのだ。
そして今日もいつも通り、町を見下ろせるこの丘で、私は大地を感じていた。そんな、穏やかなひと時。
けど、今日だけはいつもとは違う事が起こった。
異変に気付いたのは、鼻先を掠めた何かが焦げたような臭い。それは、まるで燃えているような…────。直後、響き渡る激しい爆発音に弾ける様に起き上がる。そして、目を疑った。見下ろした町が、私の故郷が、赤く、燃え上がっている。


「なん、で…」


見下ろした町に背を向け、丘を全速力で下っていく。大好きな家族の姿が浮かび、その度に脳裏を過ぎる最悪の展開に、激しい焦燥感に駆られながら走り抜けた。走れば五分ほどの距離のはずなのに、どうしてこんなにも遠いのだろう。もっと速く、速く走りたいのに。
やっとの思いで辿り着いた町は、見るも無残な様子で、瓦礫の下敷きになっている者、泣き叫ぶ者、逃げ惑う者、そこには恐怖が充満していた。
一体、どうして。震える足は棒のように前に進むことが出来ずにいた。不意に母と幼い弟に似た姿を見つけ、息を飲み声を発しようと口を開く。
刹那、目の前にある全てが消し飛んだ。
何が、起こったのだろう。壊れていても確かに其処にあった建物の面影はもう無く、言葉の通り『総てが無くなって』いた。確かに見た、母と弟の姿も、何もかもが。
最初に私を襲ったのは絶望、そして虚無感。目の前を見ることが出来ず、俯いた。
今この瞬間、私は全てを失った。故郷も、家族も、全てを。
何処からか下品な笑い声が聞こえてくる。町を襲った奴らだろうか。しかし、絶望感からか顔を上げる事も出来なかった。


「この程度か…つまらん」


そんな中聞こえた声。
『つまらん』…?
何が?
この状況が?
私の全てを奪っておいて
『 つ ま ら ん 』?
プツンと、何かが切れる音がした。


「後は貴様らの好きにしろ」


僅かに見た後ろ姿、声の主はそう言うと闇へと消える。残ったのは恐らくあの男の部下達だろう。


「後はも何も、なーんにも残ってねぇのになぁ!」
「ぁん?おい、まだ生きてる奴がいたぞ」


奴らが近付いてくるのが、分かる。同時に胸の奥から熱い、大きな力が湧いてくる。あぁ、これが怒りなんだろうか。こんな感情は、きっと初めてだ。こんなに、自分の中の力が大きくなっていくのも。


「怖くて声も出せねぇのかぁ?」
「……けんな、」
「あぁん?なんだって、」


男が最後まで言い切るより先に思い切り殴り飛ばす。その場にいた奴らは何が起きたのかと茫然としていた。殴った男の着ていた鎧が砕ける。私の拳も嫌な音がしたが、そんな事はどうでもいい。先ずは、一人。


「全員殺してやるって言ってんだよ!かかってこい!!」


体制を立て直し、怒りに身を任せて叫ぶ。それを合図に残りの男達が私へと襲いかかってきた。
こいつらくらいなら全員倒せるだろうか。それとも私が殺されるのが先だろうか。それならもう一人くらい倒して少しくらい仇を取りたいなぁ。そんな事を考えたら、一発殴られて地面へと倒れる。
別にもう死んだっていい。そうすれば、みんなと、家族と、また一緒にいられる。


「がっ、」
「ぐあっ!」


目を閉じて俯くと、打撃音と男達の呻き声が聞こえてきた。
痛く、ない。驚いてゆっくりと顔を上げると、目の前には────


「無事か!」
「え、あ…」


こくりと頷くと目の前の人物はそうか、と笑った。彼の向こうには先程私に襲いかかってきた奴らが転がっていた。
私は、助かってしまった…?


「小宇宙を感じて来たんじゃが…おぬし、名は?」
「……リン」
「ふむ…わしと一緒に来ないか?リン」


彼が伸ばしてきた手を、何の迷いもなく私は手にしていた。
それが、私と彼の出逢い。