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聖闘士や候補生達にも食事は重要で、基本各自で好きなように食べているのだが、一応食堂と呼ばれるものが存在する。沢山食べたい時にしか私は訪れなかったのだが、これがまた量だけでなくなかなか美味しい。それに多くの闘士達がガヤガヤといる其処は、訓練とかと違って私一人が行ったところで誰も気にしないので、人の目を気にせずに済むのが気が楽だと最近はちょくちょく来るようになった。


「なぁ、お前あの話聞いたか?」
「あぁ、白いワンピースの女の子の事だろう?」


そんなある時、私の後ろから聞こえてきた会話にピクリと反応する。白いワンピースの女の子。そう言って私が直ぐに思い浮かべたのは私の友人で、まさかなと思いつつもやはり気になるもので背後に耳を傾ける。


「何だそれ」
「何でも、聖域を聖闘士ではない少女が駆け回っているらしいぞ」
「見た者は数少ないから夢幻じゃないかーなんて言われてたんだがな、いつだかシジフォス様と歩いていたらしい」


あぁ、やっぱりお嬢か。
目の前の野菜を口に運んで頬張りつつ、彼等の会話に聞き耳を立てる。


「シジフォス様と、って何者なんだその女の子って」
「さぁ。一度見かけたけどアテナ様のようにこう…何かオーラがあるようにも見えなかったし」
「歳は?どのくらい?」
「十はいかないな、アテナ様より幼く見えた」
(確かサーシャと同い年か下のはずだろうってシオン様が言ってたなぁ)
「侍女とかじゃねぇのか?」
「だったら何でシジフォス様がわざわざついてるんだよ」
「確かに…」
(まぁそう思うよねー)
「そこで考えたんだが……」


心の中で突っ込んでいたらそこでピタリと黙るので、不思議に思いつつも、振り返ると面倒になりかねないから黙々と食事を続ける。すると、これは憶測なんだが、と先程より小さな声で聞こえてきたので、再び耳を傾けつつ水に手を伸ばした。


「彼女は、シジフォス様の隠し子じゃないだろうか」


あまりにも真面目なトーンで言うもんだから、思わず飲んでた水吹くかと思った。寸でのところで思い留まって、少し合ってから音を立てて一口飲み込んだだけに抑えた私を褒めてくれ。そんな私など気にも止めず、後ろでは『シジフォスさんの隠し子説』で話が進んでいて、水を握り締めながら机に突っ伏して笑いを堪える。だって、


「なんで隠す必要があるんだ」
「侍女が相手、とか」
「むしろ相手が聖闘士だから明かせずにいるんじゃないか」


とか、そりゃもう色々出てきて皆こういう話が好きなのねとか思うじゃない。仕舞いにはお嬢を見た事がある人が、あの聖闘士に似ていた気がする、とか言い出すもんだから我慢の限界がきて本格的に肩を震わせてヒーヒーと笑う。


「説明しなくていいのかよ」


出来るだけ声に出さずに机に伏せて笑う私に、不意に声が降ってきて目尻に溜まった涙を拭いながら顔を上げる。そんな私を呆れ顔の耶人が食膳を持ったまま見下ろしていて、私の顔を見ると更に眉間のシワを濃くして、深い溜め息を吐いてから目の前に座った。


「あれ、シホリちゃんの事じゃないのかよ」


私の向かいに座って食事をとるなんて珍しい、なんて思っていたら、耶人がちらりと私の背後に視線を向ける。横目に後ろへ意識を向ければ、未だシジフォスさんの隠し子という事で話は盛り上がっていて、どうやら今の話題は『シジフォスさんが黄金聖闘士になってからの子供なのか』のようだ。まぁシジフォスさん確か二十六歳だし、有り得なくはないもんな。そう思いつつ耶人に向き直り、今度はパンに手を伸ばす。


「口出したら、何か知ってるのか?とか知り合いか?とか私が標的になるじゃん。やだよそんなの面倒臭い」
「面倒臭いって…、じゃあ何で俺には話したんだよ」


何で、と言われても。耶人を見ればブスッとした顔で私を見ていて、パンを千切って口に放りながら目を伏せる。


「だって、お前しつこく聞いてこないでしょ?」


あぁ言っとけば、と声には出さずに付け足してスープを口にした。本当に私最低だな、なんてスープを飲みつつぼんやりと後ろの会話を聞く。黄金聖闘士の隠し子、ってだけで随分とまぁ盛り上がれるもんだ。娯楽が少ないから仕方が無いのかもしれないし、何よりシジフォスさんだからと言うのもありそうだけど。
ふと耶人の反応が無い事に気付いて顔を上げれば、耶人は随分と間抜けな顔で目を丸くして私を見つめていた。


「……何、その顔」
「バッ、別に何でもねーよ!」


私が呟けば、我に返ったように文句を言いつつパンにがっついた。何故か耳まで真っ赤になっている耶人に首を傾げつつ、私も再びパンを頬張った。