あれから数ヶ月。
「リー、これを」
ようやくたどり着いた聖域。これから私が生活をしていく場所となる部屋を片付けようやく一息吐いたところで、部屋を訪れた童虎さんに差し出される。視線を童虎さんから彼の手元へと移す。差し出されたのは一つの仮面。女性の顔のように見えるその仮面は何故か左目だけ涙を流していた。受け取らずに視線を童虎さんに戻せば、彼はとてもにこやかに私を見ていた。何これ、逆に怖い。
すると顔に出ていたのだろう、彼はキョトンとして直ぐに呆れたように笑った。
「今日から本格的に聖闘士候補生だからの、わしからのお祝い代わりじゃ」
もう一度仮面を見る。
これはプレゼントというやつだろうか?初めて、童虎さんから貰った、プレゼント。
「っ、ありがとう…!」
胸の奥から嬉しさが込み上げて、お礼を言って受け取ると、頭をポンと撫でてくれた。そろそろ行かないとな、とそのまま髪をわしゃわしゃとされ、私は大きく頷いて、これから自身が仕えるアテナの元へと向かった。
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それから数日後。
候補生として聖闘士や小宇宙について、聖域まで来る半年の間に童虎さんから散々聞かされた内容を学び、実際に組み手をしたりしていた。組み手と言うより、まぁ、いわゆる『喧嘩』である。
だってアイツら、変な名前だとか女顔とか訳の分からない理由で突っかかってきたのだ。だから仕方無い。そういう事にしておこう。空を仰いでから呼吸を整えるように息を吐いた。
「リー」
不意に名前を呼ばれる。この聖域で私をこう呼ぶのは一人しかいない。
「童虎さん、」
訓練終わったの?と聞こうとして振り返ると、物凄く驚いた顔の童虎さんが立っていて、思わず言葉が引っ込んだ。
え、何その顔。彼に会わなかったのはたった数日の事だ。そんな大それた変貌は成し遂げていないはず。眉をひそめれば、唖然としていた童虎さんが弾けるように私の肩を掴んだ。
「リー、おぬし仮面は!?」
マスク。
マスクとは?焦った表情の童虎さんを見つめてから、自身の腰へと目を向ける。肩を掴まれた時の勢いで微かに揺れるソレは、それこそ最後に童虎さんに会った日にプレゼントされた物だ。もしかしてコレの事だろうか。しかし、だから一体何だと言うのか。すると私の視線の先を童虎さんも追い、息を呑む音がした。
不味い、これは怒られる流れだ。今までの経験的に。
「リー!何故つけておらんのだ!!」
ほらやっぱり。
小さく溜め息を吐くともう一度名前を呼ばれる。こうなったらはぐらかすより素直に聞いた方がいいだろう。童虎さんを見つめて首を傾げる。
「何で?」
「何でって…説明したじゃろ!何だと思っとったのだ!」
「候補生になったお祝いのお守り、的な?」
そう、だからちゃんと持っていたのだ。何で仮面なんだ、デカいから邪魔だと思いつつもちゃんと持っていたのだ。それの何が悪いんだ。
不機嫌だと表情と態度で伝えれば、童虎さんはそれはそれは大きな溜め息を吐いた。仮面の話なんて聞いた覚えが無いのに、怒鳴られたり溜め息を吐かれる理由はないじゃないか。異論を唱えようとすると、彼が遮るように口を開く。
「女性聖闘士は素顔を見られた場合、その者を愛すか殺さねばならぬ。その為に仮面をするが、今のわしは持っておらんから、聖域に着いたら渡すと言うたじゃろうが」
そういえば、そんな事言っていたような。全くと云うほど世界を知らない私だが、何とも面倒臭い決まりだと思ったのは記憶に新しい。
ぽん、と手を叩くと、わなわなと童虎さんの肩が震える。不味い、これは怒られ以下略。
「……っリー!!」
「やだよ邪魔じゃんつけないよ!しかももう皆に顔見られてるから問題ないし!」
「ふざけるでない!!こっの、」
馬鹿者!という声は聖域中に響き渡り、この怒声を合図に、私は童虎さんと言い合いと追いかけっこをする事になるのだった。
