裸足で駆ける君


「わぁぁ、またサエさんばっかり女の子に囲まれてる!」


ずるいずるい、と駄々っ子のように騒ぐクラスメイトに苦笑する。ちらりと視線を送れば佐伯が爽やかな笑顔を振り撒いている。学校でもモテモテの彼に、この坊主頭のクラスメイトは憧れているようだ。憧れというよりは女子にモテたいだけのようだが。クラスメイトを見て、名字は小さく溜め息を吐いた。


「あーあ、いいなぁサエさんはモテて」
「剣太郎くんもモテモテになりたいの?」
「もちろん!!」
「ふーん…」


素っ気なく返事をするが、葵は名字を気にする事なく佐伯を取り囲む水着の女の子を羨ましげに見つめている。
名字としてはとてもつまらない状況である。何故、自身の好きな人が他の女の子を見つめてモテたいなんてぼやいているのを聞かなくてはならないのか。たまたま通りかかった名字に、笑顔で一緒に潮干狩りをしようと葵が言ってくれたときは舞い上がった気持ちも今では急降下である。はーあ、と大きな溜め息を吐けば、同時に葵も溜め息を吐いた。


「モテたいなぁ…」
(私は、剣太郎くん好きだよ)
「女の子にあんな風にきゃあきゃあ言われて囲まれてみたいなー」
(それは、見たくないな)
「名前ちゃん」
「うわ、はいっ!」
「ボクって魅力ないのかな!?」
「そんなこと、ないよ!優しいし、笑顔が素敵だと思う!」


あぁ何言ってるの自分。
穴があったら入りたい程の恥ずかしさがドッと押し寄せ一気に顔が熱くなる。慌てて目を逸らしてから、葵から反応がないのでそっと視線を戻せば、キラキラと嬉しそうに名字を見る葵にドキリとする。


「ありがとう!名前ちゃん!」
「えっ、あ、うんっ、あの、ね、剣太郎く」
「おーい剣太郎ー!ちょっと手伝って」
「任せてサエさん!」
「あ、」


佐伯に呼ばれ、裸足のままなのも気にせず、嬉々として水着の女の子達の方へと駆けていった葵を引き留める事も出来ず名字はその場で呆然と見送る。
意を決して想いを伝えるチャンスだと思ったのに、とタイミングの悪い佐伯を恨めしげに見つめる。どうやら裸足なのを女性達にからかわれているようで、葵は恥ずかしそうにしている。

(佐伯先輩のバカっ、剣太郎くんの……バカっ!!)

裸足で駆ける君も好きなのに、とやりきれない気持ちを再び吐いた溜め息に込めて吐き出した。




お題「海辺の恋で5題」
(c)確かに恋だった