(波の音…)
目を開け、首だけを窓へと向ける。夏晴れの空の向こうで波の音が微かに聞こえる。机に伏せたまましばらく外を眺めた後、再び目を閉じる。寄せては返す波の音が心地良い。
「天根ー?何、寝んの?」
「いや…波の音聴いてる」
「は?聞こえないっしょ」
クラスメイトが笑っているのを目だけで見て、息を吐く代わりに、うぃと小さく返事をした。
彼が言うように、学校から浜辺は少し離れており、普段なら波の音など学校の喧騒でかき消されて聞こえないのだが、確かに天根には聞こえていた。今日は波が高いのだろうか。耳を澄ませば聞こえてくるこの音を、まだ自身の他に出会ったことがなかった。
「波、荒れてるのかなぁ…」
ぽつりと聞こえた声に、閉じかけた目を開く。うつ伏せていた顔を少しだけ上げて目の前———声の方を見れば、名字が窓の外をぼんやりと眺めていた。気付けば声を掛けてきたクラスメイト達はいなくなっており、天根の近くには名字だけだった。机にうなだれた状態で名字を見つめていると、視線に気付いたのか彼女が振り返る。
「天根、くん?」
「波の音、聞こえるのか?」
「え……と、うん、聞こえるよ。海荒れてるのかな」
問い掛ける名字に、天根は少し合ってから体を起こして窓の外を見つめる。
初めて、同じ音を聞く人がいた。波が打ち寄せる音が微かに響く。
「少し、波が高いんだと思う」
「あ、そうなんだ。流石だね天根くん」
「?なんでだ?」
「テニス部の人達、海にいること多いから何となく。関係ない、かな?」
「なるほど」
2人で、此処からは見えぬ海を見ながら話し続ける。ふと視線を名字に戻せば、彼女も天根へと視線を移しており目が合った。
「……名字」
「な、なに?」
「初めて、同じ音を聴いてる人に会った」
「え……?」
「凄い、嬉しい」
小さく、天根が笑みを浮かべると名字が息を呑んだ後、天根から目を逸らすように勢い良く体ごと前を向いた。突然の事に目を丸くするが様子を伺うために首を傾げると、僅かに見えた名字の耳が真っ赤になっており、更に訳が分からず一層首を傾げた。
「名字?」
(び、びびびっくりした…!どうしよう天根くんのあんな顔初めて見た…!)
「どうかしたのか?」
(初めてって、嬉しいって、どうしようどうしよう、むしろ私どうしたんだろう!ドキドキするよう!)
「……おーい」
「天根くんっ!」
先程と同じく勢い良く振り返った名字に驚きつつも頷くと、彼女は一度大きく深呼吸する。
「私もっ!私もね、嬉しいよ」
「………ん」
微かに笑って頷くと、ほんのり赤く染まっていた名字の頬がみるみる真っ赤になっていき、仕舞いに俯いてしまった。訳も分からず名前を呼べば、彼女が慌てて波の音っていいよねと外を見たので、頷いて再び波の音を聴きながら目を閉じた。
お題「海辺の恋で5題」
(c)確かに恋だった
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