硝煙もやがて潮
ショートショート



 荒野のずっと向こうから吹き付ける風が髪をなぶり、砂塵を巻き上げる。細かな砂粒が目に入って堪らず顔を伏せた。
「今日はいつにも増して風が強いなあ」
 となんてことないように少年が口にする。なんだってそう平然としていられるのだろうと思ったが、いや、理由など簡単なことであった。
 彼はこういう環境に慣れている。ただそれだけのことなのだ。
 何度も繰り返し瞬きをしてやっと涙を流した私を見て、彼が「大丈夫かい?」と問うた。
 かろうじて大丈夫だが正直厳しいと伝えると、少し困ったように笑って
「頼まれごとは終わったし、早く帰ろうか」
 これ以上は君が大変そうだ。
 そんなことはない、もうしばらくは耐えられる――……これはいささか無理があるか。潔く諦めて同意を示した。街からこの荒野の真ん中まで駆けてくれた栗毛の馬に、再び二人跨って手綱を執る。
「戻ったらまた酒場で飲もうよ」
 蹄鉄が大地を抉る音に紛れて、そんな冗談めかした声が鼓膜に響いていた。




title:ユリ柩
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