歪をかさねる獣たちへ
学パロ
オベロンが最低



 だめ、と言ってもその人は聞いてくれなかった。どうしてこんなことになっているのだろう、私は彼に何かしてしまったのだろうかと考える私に、次から次へと乱暴な口付けが降ってくる。彼——オベロンは、何も言わなかった。息すら乱さず、ただ淡々と私のくちびるを奪い、口内を凌辱していた。
「あ、ぁ、おべ、……」
「何?」
 彼の乳白色の髪が顔にかかる。頬をくすぐる毛先がくすぐったい。薄く開いた目で見つめた彼の青い目は、ひどく冷たかった。普段柔和な態度で評判の優等生とは思えないその瞳に、ぞっと怖気が走る。キスをしているのだから、もっと熱を持っていてもいいはずなのに、そんな冷たい目をしているだなんて、私は彼が恐ろしくて仕方なかった。
「ん、やめ、あっ、や、」
「何、やめてほしいの?」
 彼の問いかけに必死にこくこくと頷くと、一回彼のくちびるが強く押し当てられて、じゅるじゅると舌を激しく吸われた。こんな愛情のかけらもない口付けで、身体が震えるほどの快感を得てしまうのがひどく恥ずかしく、また情けなかった。
「おべろん、……」
 お願い、と懇願すると彼は一瞬顔を離して、「えー」と拗ねたような声を上げた。どうして彼が不満げな声を上げるのだろう、と思う。本来そういう声色で文句を言うのは私の方ではないか、そんなことを考えた私に、オベロンはにこりと微笑んで——悔しいけれど、本当に美しい笑顔だった——、言った。
「そんな顔でやめてなんて言われても、僕は聞けないなあ」
 つぅ、と乱れたカッターシャツの襟元から露出した鎖骨を撫でられて、ふるりと身体が震えた。「やめてあげてもいいんだけど……」そんな風に呟く彼に、それならば是非ともやめてほしい、私たちはそういった関係ではないのだからと簡潔に伝えると、彼は数瞬つまらなさそうな顔をして、ふん、と鼻を鳴らし、じゃあ、と切り出した。

「キスフレンドになろうか。そういうの、最近流行ってるんだろ?」
「キスフレ……知らない、そんなの。大体なんで、オベロンが私と……」
「そりゃあ気持ち良かったからだよ。君とのキスは最高だった、だからキスだけするお友達になりたい、とまあこういう訳さ」

 納得してもらえたかな、と笑う彼に首を横へ振って、納得できないと意思表示すると、オベロンは少し残念そうな微笑みを見せた。以前であれば素敵な笑顔だなあなどと思って見ていたはずの、どこかアンニュイなその微笑に、今では恐怖心しか湧かなかった。
「結構win-winな提案だと思ったんだけど。君も良さそうだったし」
「良くない……!」
「ほんとに?ちょっと触れるだけでびくびくしちゃう人の発言なんて信じられないなあ」
 つ、と指先が鎖骨を辿り、そのまま下へと降りていく。彼の大きな手が左の乳房に触れた、と思った時には彼の微笑みは満面の笑顔へと変わっていた。
「ほら、今だってこんなにどきどきしてるじゃないか。それでも僕とお友達になる気は起きない?」




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